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亡き母を思い”自閉症の画家”が描いた鮮烈な『青いライオン』 懸命な子育てを映画に民放アナが主演

RKB毎日放送 2025年2月4日 17時25分

鮮やかな色遣いで動物などを描くアーティスト石村嘉成さんを育てた母・有希子さんの実話をもとにした映画『新居浜ひかり物語 青いライオン』の上映が全国で広がっている。母親役で主演したのは、小林章子さん。民放のアナウンサーだ。2月4日、RKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』に出演し、神戸金史・RKB解説委員長のインタビューに答えた。

映画『青いライオン』全国で公開中

神戸金史解説委員長:映画『新居浜ひかり物語 青いライオン』の上映が1月31日、「TOHO シネマズ福津」(福岡県福津市)で始まりました。主人公は、先天性の脳の機能障害、自閉症を持つアーティスト石村嘉成さん(30歳)です。

【石村嘉成(よしなり)】 1994年、愛媛県新居浜市で生まれる。2歳で自閉症と診断される。家族や周囲の支援を受け、自立に向けて厳しい療育に向き合う。新居浜商業高校に入学、選択の授業で油絵や版画を始める。2013年自宅アトリエで作品制作を開始、鮮やかな色彩感覚で多くの人を魅了、国内外で多くの賞を受賞している。

神戸:映画は、RSK山陽放送(本社・岡山市)が撮影したドキュメンタリー部分と、幼い嘉成さんを懸命に育てた母、有希子さんを描く再現ドラマが入り混じる構成になっています。

監督・脚本:三好聡浩・平松咲季 撮影・照明:花坂匡浩 プロデューサー:物部一宏 音楽:NAOTO 原案:原憲一 企画:川井祐介 テーマ曲:「aqua celeste」 演奏:Sugar and Spice 作曲:NAOTO

主演したのは民放アナウンサー

神戸:母親の石村有希子さん(当時40歳)は、嘉成さんが11歳になった2005年に、病気で亡くなってしまいました。有希子さん役を演じたのはRSKのアナウンサー、小林章子さんです。

【小林章子】 アナウンス部、報道部、ラジオ制作部などを経て、現在は報道部でニュースサイト「TBS NEWS DIG」のデスク業務や、ラジオ番組「永瀬清子の世界」の朗読などを担当。一男一女の母。

神戸:RSK山陽放送の創立70周年記念の映画なのですね。嘉成さんご本人が描く絵が、本当に素晴らしいですね。

RSK 小林章子アナウンサー:動物の絵が多いんですが、目が非常に生き生きとしていて、その動物の気持ちが伝わってくるような表情をしています。何といっても、色が鮮やかですよね。

神戸:どうしてこんなに美しい色彩を描けるんだろう、と思うほどです。特にあの「青いライオン」。こんな絵を描くアーティストがいるんだ、とびっくりしました。

小林:嘉成さんは、お母さんとの間で「ライオンみたいに優しくて強い人になってね」という約束がありました。お母さんとの山歩きの思い出で印象に残っている青い空、それから舞台の愛媛県新居浜市の瀬戸内海の青さ。「優しい青と強い青で、ライオンを表現した」と教えてくれました。

神戸:嘉成さんの声を聴いてみましょう。

石村嘉成さん:母は、まだ言葉がうまく出なかった私を連れて、山歩きをしました。山の頂上まで登ると、母はとてもうれしそうに、「ヤッホー!」と言いました。私も「ヤッホー!」と母の真似をしました。母は「嘉くん、強い子になってね。優しい子になってね」と、青空の向こうから私に言います。私は「お母さん、ライオンみたいに優しくて強い人になるよ」と約束します。何かに困って泣きそうな時も、自信がなくてうまくいかず、ドギマギしてびっくりしていた時も、青空のライオンを思い出して頑張ろうと思います。だから今回は、母との約束の「青いライオン」を絵にしました。

幼い日々をドラマ形式で再現

神戸:私の長男(26歳)も、嘉成さんと同じ自閉症という障害を持っていますが、こんなにはっきりはしゃべれないし、嘉成さんのような絵を描くこともありません。4歳までは意思疎通が全くできなくて、本当に困っていました。映画のドラマパートで小林さんが演じているお母さんの姿は、私の連れ合いの姿と重なりました。本当にあんな感じだったのです。有希子さんはどのような人だとお考えですか。

小林:ご家族も、生前関わった方も「本当に芯が強くて、ぶれない人だった」とおっしゃいました。「自閉症」という言葉の意味さえも今ほど理解されていない時代だったと思うんです。そういう中で「叱らないけど絶対に譲らない」「繰り返し言葉の意味を伝えていく」というやり方を貫き通すのは、本当に大変だったと思います。でも「必ずこの子は良くなる」と信じて、ずっとその療育を貫き通したお母さんの愛があったからこそ、今こうして嘉成さんは活躍しているのかなと感じます。

神戸:長男を見ていて、確かに障害(バリア)にくるまれているけれど、中身は普通の子なのですよね。言葉や概念が入っていくと、急激に伸びていく感じがしました。

神戸:それにしても、「演じる」のは大変だったんじゃないんですか。初めてでしょう?

小林:最初はセリフを読むと「全部ナレーションに聞こえる」「ニュースみたい」と指摘されて、自分でVTRを確認すると「おっしゃる通りですね」と…。だけど、その癖はなかなか取れないんです。プロの俳優さんに演技指導していただいて。アナウンサーは、どちらかと言うと、あまり表現の振り幅を大きくしないで読むことが多いんですが、もう「真逆だ」と。「表情には出さないけれど、心の内側の感情の振れ幅をものすごく大きく動かすように」と指導いただいて、一生懸命取り組んでみました。

神戸:演技では、しゃべる内容に感情が入ってくるのは当然ですし、しゃべらない間も感情が表情を通じて観客に入っていくわけですよね。これは、アナウンサーの仕事ではあまりない。

小林:そうなんです。

神戸:RKBのスタジオにも女性アナウンサーがいます。あなただったらどんな風に演じますか?

RKB 橋本由紀アナウンサー:ちょっと、想像ができません。CMの収録で、ドラマのセリフの真似をしたことがあったんですが、やはりナレーションに聞こえるみたいで、後で”なかったこと”になっていました。

神戸:お母さんの有希子さんは病に倒れてしまいます。そのシーンでは減量にも取り組んだそうですね。

小林:パーソナルジムに通って、トレーナーさんの指導の下で体重を落としました。最後の1週間は、目標体重に達するために、「水は1日これぐらいにしてください」「食事もこれくらいのカロリーに抑えてください」。もう、アスリートみたいな生活でした。本当に真面目にトレーナーさんの言う通りにして、目標の体重に達することができました。

RKB 田畑竜介アナウンサー:日ごろの業務はどうされてたんですか?

小林:日頃は報道部員として「TBS NEWS DIG」の仕事と、アナウンス業務をしながら。

田畑:アナウンス業務をしながら、減量もしていたんですか?

小林:そうです。

橋本:えー、大変!

死を前に母が遺したメモ

神戸:病室のベッドには、有希子さんが遺したこんなメモがあったそうです。

「この子はどうなるのだろう。血のにじむような努力を重ね、療育してきてやっと行動が落ち着き、少しずつ物事が分かりかけて来たのに。私のいない環境の中で、また元の野生児状態に戻ってしまうのでは。自分の病より、そちらの方が怖かった」

神戸:メモの写真も、映画のサイトに出ていましたね。

小林:本当に命が尽きるまで、嘉成さんのことを考えてらっしゃったんだな、と。自分が亡くなった後、例えばホームヘルパーさんにお願いしたり、学校の付き添いに行く方がローテーションで回るように自分で手配されたり。もう本当に細やかに。元々、看護師をしていたそうですが、先々の事を読んで動いている方だったようですね。

神戸:子供を信じるお母さんを小林さんが演じているのを観ていると、演技しているのに何だか普通に見えてきました。「実際のお母さんにも似ている」と嘉成さんは言っているようですね。

小林:「優しい母に似ていて、小林さんは好きです」みたいに日記に書いてくださった。嘉成さんは動物の絵を描いてばかりで、人間の絵はほとんど描いていないんです。でも、実のお母さんの肖像画と、私のことも日記に絵で描いてくださって、すごくうれしかったです。嘉成さんは多分、私達が思う以上に、周りの人の気持ちがすごくわかってるんじゃないのかな、と感じていました。私は映画も演技も初めてで、ちょっと落ち込み気味でした。もちろん表には出さないようにしていましたが、嘉成さんがそれをどこかで感じて、励まそうと思って描いてくれたのかな、と感じています。

竹下景子さん、檀ふみさんと共演

神戸:有希子さんに障害児の療育への取り組み方を教えた役に、檀ふみさん。嘉成さんの小学校の校長役として、竹下景子さんが出演しています。なかなか有名な方々が一緒に映画に出ていらっしゃる。

小林:本当に緊張しました。私が演じるお母さんを導いてくれる役どころだったので、撮影の時は非常に和やかな雰囲気を作ってくだいました。

神戸:竹下景子さんの声を聞いてみましょう。

竹下景子さん:「脳の中で、ある部分が傷ついている」「障害を持っている」という事実は、もちろんあるのは分かりますけれど、でも人間はそれだけで何か諦めてしまうべきじゃない。この映画がもっともっと広く皆さんに知られることで、また新しい道がそこから開けていくんでしょうね。そのことに、すごく期待をしています。

小林:自閉症の療育には、障害のあるなしに関わらず「たくさんの学び・気づきがある」と、私が演じた有紀子さんはおっしゃっていたそうです。それを皆さんにお伝えしたいと願いながらも、やはり病で叶わなかった。この映画を通じて、お母さんの有紀子さんの思いを受け取っていただけたらうれしいな、と思います。

【福岡・佐賀での上映】 1月31日(金)~TOHO シネマズ福津(福岡県福津市) 2月7日(金)~THEATER ENYA(佐賀県唐津市)

◎神戸金史(かんべ・かねぶみ)

1967年生まれ。毎日新聞入社直後に雲仙噴火災害に遭遇。東京社会部での勤務後、RKBに転職。やまゆり園事件やヘイトスピーチを題材にしたドキュメンタリー映画『リリアンの揺りかご』(2024年)は各種プラットホームでレンタル視聴可。ドキュメンタリーの最新作『一緒に住んだら、もう家族~「子どもの村」の一軒家~』(2025年、ラジオ)は、ポッドキャストで無料公開中。

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