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タイで同性婚した日本の元警察官の女性(42)大失恋のつらさから母にカミングアウト「母の言葉にただただ安心したんです」

RKB毎日放送 2025年2月5日 18時4分

タイで「結婚平等法」が施行された1月23日。タイ人女性と結婚した日本人女性がいる。瓜生安希さん(42)、元警察官だ。8年前タイに移住した時には「まさか、”ふうふ”になれるとは思っていなかった」。

性に寛容だといわれるタイでも、同性婚の法制化には、国会で議論が始まってから10年以上かかっている。動きが加速したのは2年前だ。何が、同性婚の実現を後押ししたのか。

「好きな人は女性」20歳のころ母に打ち明けた

福岡県直方市で生まれ埼玉県内で育った瓜生安希さん(42)。小学校を卒業するころ、自身の性について「周りとは違う」という違和感を持ち始めた。

瓜生安希さん「性自認は女性。好きになるのも女性。あとは、いわゆる女性的な格好とかよりは、中性的な、いわゆる男性的な格好のほうが好き。」

20歳を迎えるころ、初めて女性が好きであることを、母親に打ち明けた。

きっかけは大失恋だ。当時精神的に参っていた瓜生さんは、誰かに泣きつきたかったが、友人には女性が恋愛の対象であることを打ち明けていない。泣きつけるのは、母親しかいなかった。

失恋したこと。相手は女性であること。今、とても辛いこと。自宅で胸の内を吐き出した。

娘の話を聞いた母は、「大丈夫?」と精神状態を心から心配してくれた。

瓜生安希さん「母親に話をしても、別に否定されませんでした。母は、ただただ、私を心配してくれました。それを見て、ああ、母の中では娘の恋愛対象が女性であることは重要な問題じゃないんだ、と分かって安心したんです。一番近い存在の人たちに否定される人もいると思いますけど、私はそういうことはなかったのでラッキーでした」

ただ、家族や親しい友人以外に自分のことを話す勇気はなかったと話す。

瓜生安希さん「言ったら仕事にも影響あるでしょうし、そんなの怖くて言う気もしなかった。隠していましたよね」

警察官だったころ訪れたタイで現在のパートナーと出会った

瓜生さんは警察官として働いていた。2014年に訪れたタイで、パートナーのワリンさん(43)と出会った。瓜生さんの父親がタイで経営していた企業にワリンさんが勤めていたのが出会いのきっかけだった。

3年ほどタイと日本で遠距離恋愛を続けていたが、8年前、瓜生さんがタイに移住し一緒に暮らし始め、そして去年7月、タイに家族や親しい友人たちを招いて結婚式を挙げた。いわゆる事実婚だ。

「生きている間にこういう法律がスタートするなんて」ドレスとスーツで婚姻届に署名

しかし、転機は予想外に早く訪れた。今年1月、同性婚を認める「結婚平等法」がタイで施行されたのだ。実は法案は去年6月に可決されていたが、瓜生さんは「実際のところ施行までには時間がかかるのだろう」と思っていたからだ。

施行された日、婚姻届け提出の会場となった商業施設に、ふたりはホワイトドレスとスーツで向かった。そしてそれぞれの名前を署名した。

瓜生安希さん「嬉しい、嬉しいです。正直、自分が生きている間にこういう法律がスタートするなんて、期待もしていなかった、思ってもいなかった」

「男性」「女性」が「個人」に

タイでは、「結婚平等法」の施行で、条文の「男性」「女性」が「個人」に変更されたほか、税金の控除や相続、養子縁組などの権利が認められるようになった。タイ人だけではなく、外国人も対象だ。

同性婚の合法化は東南アジアでは初めて。アジアでは、台湾・ネパールに次ぐ3例目だ。

RKBバンコク支局 ゲーワリン・タンワッチヤラパーニー記者
「バンコクの商業施設には婚姻届を出す同性カップルが訪れています。きょう1日で300組が提出するということです」

歴史的な日、多くのカップルが喜びをかみしめていた。

婚姻届が受理されたカップル
「幸せです。この日をずっと待っていました」
「愛に性別は関係ありません」

「アメリカよりも心が広い国」自負するタイ 同性婚を後押したのは

この日のイベントに登壇したタイのセター前首相は、アメリカのトランプ大統領が「『生物学的な男女』のみを性別として認める」とする大統領令に署名し、多様性を否定したことを批判した。

セター前首相「最近就任した、ある大国の指導者が、自国には性別が2つしかないと名言しました。私は衝撃を受けました。私たちは、彼らよりも心が広い国だと信じています」

タイは、近年"LGBTツーリズム"を掲げ、観光客の受け入れを進めたほか、同性愛をテーマにしたドラマを世界に発信するなど、多様な社会のあり方をアピールしてきた。

また、性別適合手術などの医療技術が進んだことも「ジェンダーに寛容な国」というイメージを定着させた理由のひとつ。美容整形が専門のバンコクのガモン病院には、国の内外から多い時で月に約100人が性別適合手術を受けに訪れる。

ガモン病院の創設者 シリペン・パンシートゥムさん
「最近では、心と性が一致しないトランスジェンダーに限らず、性別を当てはめないノンバイナリーなど、様々なグループを受け入れています」

国営企業も同性パートナーを「福利厚生の対象」に

銀行のカード業務を行うタイの国営企業「KTC」は3年前、同性のパートナーがいる従業員にも男女の夫婦と同じように、住宅ローンの補助や結婚支援金を提供する福利厚生制度を導入した。

KTC ピヤスダー・クェンノンシー人事部長
「LGBTQ+という従業員のアイデンティティをありのままに受け入れ、オープンな会社であるべきだと考えています」

ただ、そんなタイでも性的マイノリティへの差別や偏見は残っている。

瓜生さんと結婚したワリン・クァンピグンさん(43)は、バイセクシャルで、男性、女性の両方が恋愛の対象になる。過去にいじめられた経験がある、と話した。

ワリン・クァンピグンさん「私も(同性愛が)異常なことだとみなされ、いじめられたこともあります。やっと法律ができて、充実した生活ができるようになるので嬉しいです」

タイでは同性婚が認められるまでに、国会で最初に法案が提出され議論が始まってから10年以上かかっている。動きが加速したのは2年前だ。

同性婚、法制化の決め手になった選挙結果

きっかけのひとつが、2023年に行われた総選挙。多様性を求める若い世代から大きな支持を集めた革新系の政党が第1党になったことが大きい。LGBTQ+の当事者でもある国会議員たちが中心となって法整備が一気に進み法案が可決されたのだ。

社会がどれほど変化しても、最後は政治の力。そしてその政治を変えたのは、当事者を含む若い人たちの声だった。

当たり前の幸せ、日本でも

瓜生さんは今、首都バンコクの郊外でパートナーのワリンさんと一緒に暮らし、幸せをかみしめている。

ワリン・クァンピグンさん「彼女はとても気配りが上手で、今でも私をデートに連れ出してくれます」

好きな人と念願の”ふうふ”になれた瓜生さん。日本でも当事者たちの権利が平等に保障され、多様性が認められる社会になってほしいと話す。

瓜生安希さん「タイは、女性同士とか男性同士とかのカップルっていうのは、本当にいっぱい分かるような形でいろんなところにいらっしゃいますよね。こんな形って日本で見たことがなかった。それをどう捉えるのかっていうのは人の感じ方なのでそれを強要できるわけでもないので難しいですけど、法律は、違憲だとかの判断を裁判で積み上げていかないと変えられないんだっけ?って思います。そもそもおかしいことじゃないのに。先に制度が出来ちゃえば、その後みんなの考え方とかってついていくみたいなところってあると思うんですけど。特に日本は母国ですし、認められれば日本でも結婚できるわけですし。それはぜひぜひ制度化してほしいです」

もちろん、同性婚が認められたからすべてが解決するわけではない。タイでは、性別適合手術を受けたあとも法律上の性別変更が認められていないなど、制度上の問題もいくつか指摘されている。ただ、今回の同性婚の合法化を機に、法改正に向けた議論が進むとみられている。

RKBバンコク支局 記者 ゲーワリン・タンワッチヤラパーニー

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