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"プライベート・仕事も充実"A面の自分と"毎晩自宅で過食嘔吐"B面の自分 「摂食障害」25年にわたり向き合った40歳女性

RKB毎日放送 2025年2月11日 16時55分

体重が増えることへの恐れから、食事の量を極端に制限する拒食症や大量の食べ物を詰め込むように食べてしまう過食症など「摂食障害」に悩まされている人は少なくありません。

思春期や青年期の女性が発症することが多い「摂食障害」。

10代の半ばからおよそ25年にわたり拒食症と過食症に苦しみ、向き合ってきた40歳の女性の姿です。

「死にたいのに、死ぬ勇気もない」

「摂食障害」に苦しんだ女性が手帳に書いた言葉です。

病気と闘ってきた苦しみが、綴られています。

この言葉を書いた福岡県太宰府市に住む江上彩音さん(40)が「摂食障害」を発症するきっかけとなったのは、中学3年生の夏を過ぎたころの体の変化でした。

ソフトテニス部を引退して痩せていったことに喜びを感じたといいます。

摂食障害と向き合う江上彩音さん
「痩せていた方が可愛いとか痩せていた方がいいっていう何となく一般的なイメージがあるじゃないですか。私もそういうイメージは持っていたので痩せることイコール嬉しいこと喜ばしいことで。食べ物を減らすと体重が減るということがわかって、それが快感になってくると、食べるものを制限するようになって・・・」

食事の量を極端に制限する「拒食症」が続き一時は体重が30キロ台まで減ったという江上さん。痩せていることが「自分の個性」になっていたといいます。

高校生まで「拒食症」だった江上さんでしたが、大学生になると状況が一変します。今度は、たくさん食べては吐くという行動を繰り返すようになりました。「過食嘔吐」です。

「吐いてしまえば太らない」。そう思うようになってから、それまで抑えてきた食欲が爆発したといいます。

江上彩音さん
「食べても吐くっていう手段があるんだって思ってしまって。試しにやってみたら自分の場合は割と吐けてしまったので、そこからそれまで抑えていた食欲が爆発したのもあって・・・。儀式みたいな感じなんですよね。スイッチ入ったら別人が何かが自分に憑依したように過食モードに入って」

社会人になってからもその習慣は変わりませんでした。

江上彩音さん
「趣味もプライベートも仕事も充実してますみたいなA面の自分がありつつ、裏ではB面の自分というのは毎晩毎晩、仕事が終わって家に帰って過食嘔吐するというのが毎日続いてました。飲み会とかはすごく好きで、それは積極的に参加してましたけど、そういう時でも最後は家に帰って3次会みたいな。過食嘔吐との3次会。その儀式はやめられなかった」

江上さんの心と体をむしばんだ「摂食障害」。体重が増えることへの恐れから、食事の量を極端に制限する拒食症や大量の食べ物を詰め込むように食べてしまう過食症になる病気で、2つの症状が交互に発症することもあります。

先進国に住む思春期や青年期の女性の発症が多い障害で九州大学病院の心療内科に設置された福岡県の摂食障害支援拠点病院への相談数は昨年度267件にのぼりました。

九州大学心療内科の高倉医師は「実態はもっと多い。摂食障害になっている人は少なくとも3倍はいるのではないか」と話しています。

昨年度の相談数267件のうち10代が69件、20代が72件となっていて合わせて半数以上を占めました。

家族にも打ち明けられないまま、約25年にわたって「摂食障害」に苦しみ、向き合ってきた江上さん。

「摂食障害」に苦しむ自分を”相棒”と呼び治療を続けた結果、今は「過食嘔吐」を繰り返ことはなくなりました。

江上彩音さん
「背景にある自分自身の問題と向き合い続けたっていうのが一番大事だったと思っていて。不安になりやすい自分とか、自分の内面をひも解いていく地道な作業の繰り返しが今に繋がっているのかなという気はします」

「摂食障害」はなぜ発症するのか。専門家は心の問題と深く結びついているといいます。

九州大学病院心療内科・高倉修医師
「ダイエットに始まる方が多いんですけど、だんだんとそれがちょっと色んな意味合いを持ち出していく。(痩せることで)いろんな厳しい現実を回避できるとかそういった意味合いができていって、それがだんだんと抜けられない生き方のようになっていくような病気。体重が上がってとてもつらいっていう思いの中に、患者さんの本質的な心の問題が隠れている。それをきちんと心理面接を行うことで治療しないといけない」

3年前から病院で治療を受け始めた江上さんは、3か月間の入院生活も経験しました。

担当医は、江上さんが回復したいという意思を持って治療プログラムに参加し続けたことが「摂食障害」の克服にむけた歩みにつながったと話します。

八幡厚生病院・米良貴嗣医師
「(摂食障害の患者は)自分に自信がなかったり、自己否定的になったときに起こってくる。(江上さんは)ちゃんと回復したいという意志を持ってくれたことですね。ちゃんと回復するというのは医学的な健康な体重を受け入れるということなので、(江上さんは)きちんと(治療)プログラムに出てくださっていたので、そうするとだんだんいろんなストレスの対処のスキルとかも上手になってくるし、自己否定的な感情にとらわれることも減っていく」

江上さんは、2022年12月に「摂食障害」に苦しむ人たちが互いに支え合うための自助グループ「ふくおか摂食障害ともの会」を設立しました。

自助グループでの活動を通して生まれた人とのつながりも江上さんの心の支えになっています。

江上彩音さん
「話せる家族がいたり、ともの会の仲間がいたりというところで頼れる先もあるので、たとえ症状がまた再燃しそうになっても、自分をちゃんと大事にしながら乗り越えていきたいなと思っています」

江上さんは、「摂食障害」の克服へ向け着実に歩みを進めています。

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