今月、はるばる大阪から400キロの長旅を経て、出来立てホヤホヤの電車の車両が松山に到着しました。伊予鉄道が来年2月のデビューを目指す郊外電車の新型車両です。実に67年ぶりとなる一大プロジェクトの舞台裏を取材しました。
さかのぼること、半年前のことし5月、大阪・東大阪市。鉄道車両の製造を行う「近畿車輛」です。伊予鉄道車両部の三好学部長。新型車両、製造の進捗を確認するため訪れました。
三好さん:
「やはり実物を見ると図面とは違いますね。立体感があって」
目の前に現れたのは、製造中の「7000系」の車体。伊予鉄道の郊外電車は代々、東京の京王電鉄から購入した中古車両や車体部分だけ新造した車両などが使われてきました。ゼロからの“完全新設計”で車両を製造するのは、実に67年ぶりとなります。
工場では、ちょうど4段階の行程で進められる検査のうちの「構体検査」が行われていました。
近畿車輛は、1920年に創業した「田中車輛」を前身として、1945年からは「近鉄グループ」の一員に。新幹線や特急、通勤電車などこれまで国内外の鉄道会社の1万8000両あまりの車両製造を手がけてきました。熟練の技術者立会いのもと、寸法や溶接が仕様書の通りに仕上がっているか隅々までチェックしていきます。
「乗ってみたい」と思われる車両を目指して
車の設計やメンテナンスを行う会社から、34歳の時に伊予鉄道に転職した三好さん。主に電車の整備などを担う“車両課畑”を歩み、7年前には市内電車・5000系の導入にも携わりました。
そして今回、新型車両導入プロジェクトの責任者に。
三好さん:
「私ども造る方もワクワクするような車両で、お客さまに興味をもっていただいて『乗ってみようかな』というような車両を目指して。プレッシャーの連続です。これから先もまだプレッシャーなんですけど」
「乗ってみたい」と思われる車両を目指して、三好さんが特にこだわりをみせているのが…
「この曲線部分ですよね。この部分は鋼鉄製なんですけど、いかになめらかに曲線を出して側面とつなげて一体感を出すか。このあたりがポイントになってくると思います」
Q松山市民の反応は?
「『おぉ!』ってなるんじゃないですか?」
ところ変わって松山市の伊予鉄道本社です。
三好さん:
「流線形にさせるということで、ガラス部分が少し死角が増えると」
近畿車輛・設計室 菅野直哉主幹技師::
「視界を確保するために運転台自体を(左側から)少し真ん中の方に寄せて、安全を確保できるように配慮しています」
伊予鉄道と近畿車輛は、おととしから新型車両の導入に向け、協議を重ねてきました。
近畿車輛・設計室 菅野直哉主幹技師:
「お互いのこだわり。どこで妥協点というかバランスをとるか、そこが一番難しいところ」
総投資額はおよそ40億円。人口減少に伴う利用客の減少や環境負荷の低減など、昨今の鉄道業界への逆風に立ち向かう一大プロジェクトなのです。
完成した新型車両と初対面!
10月16日。
三好さん:
「ものすごく緊張しています」
再び近畿車輛を訪れた三好さん。完成したばかりの新型車両と初めての対面です。
三好さん:
「おぉ~!思っていたよりもかなりシュッとした印象で。初めて完成した姿を見ましたので、ちょっと実感がわいてきました」
伊予鉄の郊外電車としては実に67年ぶりとなる“完全新設計”の新型車両「7000系」。“愛媛らしさ”を表現したオレンジと黒のカラーリングが特徴です。「脱炭素化」をコンセプトに、使用電力をおよそ50%削減しました。
三好さんが特にこだわった車両の“顔”については…
三好さん:
「制約と理想の狭間でギリギリのところを攻めてつくりましたので。かっこいいでしょ?早く(松山に)持って帰りたいです」
引渡し前の最後の検査、「完成検査」が始まりました。ブレーキ試験では、7つの段階に分かれているブレーキの圧力が基準値の中に収まっているかをチェックしていきます。
Qどうですか?
三好さん:
「想像していたよりも中が明るくて」
車内空間は居住性を優先し、中吊り広告や網棚を取り払うことですっきり広々とした空間に。
車内放送も全自動となり、車掌業務の省力化が図られています。
アナウンス:
「間もなく土居田、土居田です。お出口は右側です」
近畿車輛担当者:
「ただいまから走行試験を始めさせていただきます」
いよいよ最後の試験です。
三好さん:
「まぁ大丈夫だとは思うんですけど、やっぱり動く瞬間は…」
「走行試験」では工場内のレールをさまざまな速度で走行。何度も往復しながら走行時の加速・ブレーキ・異常音などを確認します。
三好さん(運転席で):
「ほっとしました。やっとここまできたかという感じですね」
大阪→愛媛を目指して!伊予鉄電車がJRの線路をゆく
旅立ちの日。牽引用の機関車と工場内で連結した車両は近畿車輛を出発。
アナウンス(JR徳庵駅):
「列車発車いたします」
完成して初めて踏み出した外の世界。およそ400キロ先の愛媛を目指します。
まだ世間に公にされていないその姿…しかも伊予鉄道の車両がJRの線路を走行するというレアな光景に、どこで聞きつけたのか…行く先々ではカメラを構える鉄道ファンの姿が。
そして…
記者:
「午前4時52分です。新型車両を引く機関車のヘッドライトが見えてきました」
およそ14時間かけ、新型車両が伊予市のJR松山貨物駅に到着しました。
最後はトレーラーに乗って 伊予鉄のレールへ
次の日。午後9時、大型トレーラーに乗せられた新型車両が、およそ17キロ先の松山市宮田町を目指しゆっくりと道路を進んでいきます。
目的地、直前最後に待ち構える一番の難所は急カーブの交差点です。
お見事!車道いっぱいを使った大回りで左折に成功です。
記者:
「見えてきました。新型車両を乗せたトレーラーが宮田町へと向かってきます。集まった人たちが一斉にカメラを向けます」
ここで、待ち受けているのが最後の大仕事。トレーラーに乗った車両をクレーンで吊り上げ、伊予鉄道のレールへと移す作業です。
「台車」がレールに乗せられ、いよいよ7000系の登場です。
記者:
「車両がクレーンによって、トレーラーから1メートルほどの高さに吊り上げられました」
宙に浮く車体。なかなか見られない光景に、沿道から熱い視線とカメラが向けられます。
三好さん:
「もうちょっとしたら台車入れ始めるんで」
無線:
「はい、了解しました」
今度は、「心皿」と呼ばれる台車の中心部に、車両のセンターピンを差し込む繊細な作業です。
作業員:
「下げて…下げて…はい、ストップ!」
ミリ単位で進められる作業を三好さんも間近で見つめます。
作業員:
「ライン乗った!」
午前1時過ぎ、およそ2時間にわたる搬入作業が完了。ついに7000系が伊予鉄道のレールに乗りました。
作業員:
「はい、OKです」
記者:
「いま動き出しました。初めて新型車両7000形が伊予鉄道のレールを走っていきます」
鉄道ファン:
「圧巻でしたね。これ何度でも見たいですね」
鉄道ファン:
「初めて見る光景だったので素直に感動しました。限られた空間の中できっちり作業されているのを見るとすごいなって」
鉄道ファン:
「今まで伊予鉄道になかったような電車なのですごい新しい時代が来たなと」
午前2時半、車両は古町車庫に到着。
三好さん:
「やっとここまでたどり着いたかなという実感がありますし、皆さんに可愛がっていただける車両になるように今後も車両を育てていきたい」
伊予鉄道・郊外電車の新型車両7000系は、来年2月のデビュー予定です。
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