ドイツ発祥のシュトレンやフランス発祥のブッシュ・ド・ノエルなど、日本でも海外のクリスマススイーツを見かけるようになったが、意外と知らない海外のクリスマス事情。世界にはどんなスイーツがあり、どんな風に過ごすのだろうか。北米、アジア、中南米、ヨーロッパから愛媛に住む外国人たちに聞いた。
(取材・文 / 津野紗也佳)
①【アメリカ】ケーキではなくジンジャークッキーやパイが定番
まずは様々なルーツや宗教を持つ多民族国家であるアメリカ。11月末のサンクスギビングデー(感謝祭)からクリスマス、年末にかけて“ホリデーシーズン”と呼び、それぞれのやり方で祝日を祝う。
感謝祭が終わるとお店にはハートや星、ツリーなどを型取った色鮮やかなクッキーが並ぶ。中でも、欧米のクリスマスに欠かせない「ジンジャーブレッドマンクッキー」や「ジンジャーブレッドハウス」は絵本にもよく登場し、古くから幅広い世代に愛されている。
聖書の中の羊飼いが持つ杖を模しているとも言われる「キャンディケーン(キャンディの杖)」。クリスマスの飾りつけにもよく用いられるが、ミント味のものが主流で、子どもたちの好き嫌いは分かれる。
子どもの頃、母親が作ってくれる「パンプキンパイ」が特にお気に入りだったという、松山市在住のトムさん。英会話講師として、日本の子どもたちにもクリスマスの文化を伝えている。
ユタ州出身・トム ウエストさん(39):
「クリスマスは、『Season of Giving(贈る季節)』だと親から教わっていました。もらうより前に自分から贈る、与える心が大事だと。だから子どもの頃は両親に贈るクラフトを作っていましたね」
「各家庭によりますが、うちではイブの夜に家族みんなでローストチキンやハムを食べたあと、ツリーの下にある沢山のプレゼントのうち、一つだけ開けさせてもらえました。これは毎年決まって、パジャマや下着でした。そして翌日クリスマスの朝が、一番の楽しみ。全てのプレゼントを開けることができるんです」
日本ではクリスマスをカップルで過ごし、新年は家族で迎える人が多いが、アメリカは逆だ。年越しの瞬間にキスやハグをすることが文化として定着していて、新年はカップルにとってロマンチックな行事だという。
現在、2児の父でもあるトムさん。子どもたちにアメリカ流のクリスマスを過ごしてもらいたいと、部屋には必ずツリーを飾り、奥さんが作ってくれたチキンやマカロニチーズを食べるそうだ。そしてクリスマスの朝、子どもたちがプレゼントを開けるのを楽しみにしている。
②【フィリピン】世界で一番長いクリスマス祝う「プト・ブンボン」
2か国目は国民の約90%以上がキリスト教徒で、アジアでは唯一のキリスト教国であるフィリピン。
伝統スイーツは、見た目も名前もインパクトの大きい「プト・ブンボン(Puto Bumbong)」。竹筒で蒸したもちもちの紫米に、マーガリン、すりおろしたココナッツや黒砂糖をトッピングして、バナナの葉の上に盛られている。
マニラ出身・カトリーナさん(30):
「フィリピンでは『ber-months』と呼ばれる9月から人々は飾り付けの準備をし、友人や家族へのプレゼントをゆっくりと買い始めます。ショッピングモールも飾り付けを始め、至る所でクリスマスソングが流れます」
「私にとってクリスマスは、イエスの生誕を祝い、このお祝いを家族、親戚みんなで分かち合うことを意味します。私たちには「ノチェブエナ」という伝統があります。12月24日に全員が楽しむお祝いのディナーです。この日は真夜中まで一緒に食事をし、ゲームをし、カラオケを歌います。真夜中、クリスマスを迎えるとプレゼントをお互い手渡し、全員でそれを開けます。私はこの夜が大好きなんです」
フィリピンでもほとんどの人にとって、クリスマスは家族で楽しむ時間。カトリーナさんは日本で初めてクリスマスを過ごしたとき、カップルで過ごす人が多いことに驚いたそうだ。
③【ジャマイカ】日本のKFCにびっくり!クリスマスキャロルはレゲエ調で
続いてはカリブ海に浮かぶ小さな島国、ジャマイカ。キリスト教徒が多いジャマイカは教会の数も非常に多く、人々の生活と強く結びついている。
伝統スイーツは「ポテトプディング」。このルーツは植民地時代にイギリスから入ってきた「クリスマスプディング」にあると言われている。すりおろしたサツマイモをベースに、黒砂糖・レーズン・ココナッツミルク・ラム酒・スパイスなどを混ぜた、最もポピュラーなお菓子のひとつだ。
このほかラム酒をたっぷり入れたフルーツケーキや、ココナッツを溶かした砂糖で覆った「ドロップス」。ソレル(和名:ベニアオイ)という植物から作る飲み物など、クリスマスには特別なスイーツが用意される。
リンステッド出身・ロドリック ソロモンさん(46):
「12月の間、ジャマイカ人は家の大掃除をし、教会の礼拝に行きます。クリスマスソングやキャロルは、レゲエバージョンでも演奏しますよ。あとはプレゼントを買ったり、クリスマスツリーや飾り、ライトを飾ったり。パントマイムを見るために劇場にも行きます」
「クリスマスイブには『グランドマーケット』に行きます。これはとても大きなイベントです。食べ物やさまざまな商品、おもちゃなどが売り買いされ、たくさんの音楽をかけ、ダンスを楽しみます。クリスマス当日は、多くの人が教会に行くか、家にいて家族や友人と豪華なディナーを楽しみます」
日本で一番驚いたのは、クリスマスに“ケンタッキー”を買って食べることだという。ジャマイカでは特別な日であるからこそ、すべて手作りで用意し、家庭の味を受け継いでゆく。
④【スペイン】プレゼントはサンタクロースじゃなくて“三賢者”から!?
最後は日本に初めてキリスト教を伝えたという宣教師フランシスコ・ザビエルの故郷、スペイン。
クリスマスに欠かせないのは、「トゥロン」というヌガー菓子や「ポルボロン、マンテカード」といったホロホロ食感のソフトクッキー。24日には家族でクリスマスソングを聴きながら、ゆっくりと食事を楽しみ、デザートとしてこれらを食べるのが伝統となっている。
スペインのクリスマスの特徴は、どの家もツリーのほかに、イエスが生まれたとされる「馬小屋」のフィギュアを飾ること。そして何より、シーズンが1月6日まで続くことだ。
マドリード出身・ホアン ベルモンテさん:
「31日の夜中12時前になると、マドリードの有名な広場の時計台を映したテレビ中継を必ず見ます。そして時計台の鐘が12回鳴る音に合わせ、ブドウの実を12個食べるんです。そしてみんなで乾杯し、新年を祝うのも伝統です」
「そして、6日は『レジェス・マゴスの日』と呼ばれるお祝いの日。キリストが誕生した際に『東方三賢者(レジェス・マゴス)』がラクダに乗って現れ、イエスにそれぞれ贈り物をしたとされています。このエピソードに由来して、スペインでは1月5日の夜に三賢者のパレードがあります。子どもたちはパレードを見て『このあと、3人が家にプレゼントを届けに来るんだ!』と急いで帰って、早めに寝ます。そして三賢者の為に、トゥロンやポルボロンを用意しておくのです。朝、プレゼントを見つけた子どもたちは大喜び。私にとってはサンタクロースよりこの三賢者からのプレゼントが印象深いですね」
さらに、お店でこの日だけ売られる特別な菓子が「ロスコン・デ・レジェス(王様のスイーツ)」。ドーナツ型の菓子パンで、表面はドライフルーツのシロップ漬けやスライスアーモンドで飾られる。中に小さな人形が入っていて、切り分けた時の当たりはずれをゲーム感覚で楽しみながら食べるのだとか。
「日本では25日が終わると同時にシーズンが終わってしまうのがちょっと寂しい」というホアンさん。スペインではクリスマスの後、日本のようにお正月ムードに一変という慌ただしさはなく、ゆったりとシーズンを過ごすそうだ。
4か国を見ても多種多様だったクリスマスの過ごし方。しかしどの国にも共通して、大切な人たちと囲む食卓に、クリスマスを彩る思い出の味があった。