平成27年に長野県佐久市で中学3年だった和田樹生さん=当時(15)=が死亡した自動車事故で道交法違反(ひき逃げ)罪に問われた男性被告(52)の上告審弁論が13日、最高裁第2小法廷(岡村和美裁判長)で開かれる。刑事裁判が3度開かれる異例の経過をたどった事故。2審は逆転無罪としたが、両親は「被害者の生命の安全が守られる判断を」と、最終審に期待を寄せる。
事故は27年3月23日夜に発生。飲酒後に乗用車を運転していた被告が、横断歩道にいた和田さんをはねて死亡させた。
現場は和田さん宅のすぐ近く。大きな音で父親の善光さん(54)が駆け付けると、見覚えのある靴が落ちていた。和田さんが履いて出かけた善光さんのスニーカーだった。倒れていた息子に駆け寄り救護活動をしたが、死亡が確認された。
事故直後に被告がコンビニに立ち寄っていたと知ったのは、後日になってからだ。飲酒運転の発覚を恐れ、口臭防止用品を購入していた。
時効直前
被告には同年9月、自動車運転処罰法違反(過失運転致死)罪で執行猶予付き有罪判決が言い渡される。両親は控訴と実刑を求める署名を4万筆以上集めたが、長野地検は控訴せず、確定した。
しかし、両親は独自の調査を始める。専門家に事故現場の測量・解析を依頼。被告が当時、時速100キロ以上を出していた可能性があるとして、地検に処分を求めた。
地検は時速96キロで走行したとする道交法違反(速度超過)罪で起訴。だが、この裁判では手続き面での不備を理由に公訴は棄却された。
両親が並行して処分を求めたひき逃げについて地検は不起訴としたが、検察審査会が31年に「不起訴不当」と議決。地検は同年、再び不起訴にしたが、時効成立直前の令和4年1月に起訴した。
将来の夢
3度目の刑事裁判では、被告がコンビニに立ち寄ったことが、ひき逃げの成立に必要な「救護義務違反」にあたるかが主な争点になった。
長野地裁は懲役6月の実刑としたが、2審東京高裁は「救護義務を行う意思はあった」と無罪に。最高裁の弁論は2審の結論を変更するのに必要な手続きで、無罪判決を見直す可能性がある。
当時、和田さんは志望校への合格を決めたばかり。事故に遭ったのも塾からの帰り道だった。背負っていた赤いリュックには、「友達をいっぱい作りたい」などと、入学後の抱負がつづられた作文が入っていた。
母親の真理さん(52)は、路上に倒れていた息子の気持ちを想像することがある。
「すぐ救護活動をしていれば、助かったかもしれない」。両親は、厳正な判断を求めている。(滝口亜希)