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迫る「2030年」熾烈さ増す航空人材の争奪戦 航空業界募る危機感

産経ニュース 2024年7月13日 21時19分

人材不足で旅客機が飛ばせない。世界的な航空需要増大に伴い、安定運航を支える担い手が足りなくなる「2030年問題」に直面し、航空業界は危機感を募らせる。減便に追い込まれた航空会社もあり、航空人材の「争奪戦」が熾烈(しれつ)さを増す中、自衛隊パイロットのさらなる転身に期待が高まる。

国土交通省によると、国内線の旅客者数は9066万人(令和4年度)。国際線は3047万人(同)で、新型コロナウイルス禍で落ち込んだ需要は回復しつつある。国際航空運送協会(IATA)は6月、2024年の世界の旅客数が約50億人に達し、過去最高になるとの見通しを発表した。

日本では令和12年ごろから現役パイロットの多くが定年を迎えるが、とりわけ成長著しい格安航空会社(LCC)は機長の約4分の1を60代が占めるなど厳しい状況が続く。平成26年には、最大手のピーチ・アビエーションが機長不足を理由に最大2千便の減便を余儀なくされた。

こうした事態を踏まえ、国交省は安定的に要員を確保するため、①パイロットの年齢制限を64歳から67歳に引き上げ②航空大学校の定員を1・5倍に拡大③学費負担の重い私立大生らを対象とした奨学金制度の創設④外国人や退職した自衛隊パイロットの資格取得制度の見直し-などを段階的に進めてきた。

だが、パイロットの育成には時間がかかる。機体の大きさや種類、用途に応じたライセンスの取得が求められ、旅客機の運航には定期運送用操縦士の資格も必要となる。航空各社は即戦力として外国人パイロットの採用に力を入れるが、採用後も定着するとは限らず、流動性がネックとなる。

飛行経験が豊富な自衛隊出身のパイロットも、人材供給ルートの一つとして注目される。ただ、民主党政権下で国家公務員の天下りが禁止され、防衛省が民間航空会社への再就職を自粛させた経緯もあり、元自衛官の転身は決して多くない。

海外の航空会社では元軍人が主要な人材供給源となり、足元を支える。国交省の担当者は「退職した自衛官は即戦力として期待できる。これまで以上に再就職しやすい環境を整える必要がある」としている。

整備士も不足、制度を大幅見直しへ

国土交通省の有識者会議が6月にまとめた航空人材の確保に向けた中間案では、新型コロナウイルス禍で志願者が急減した航空整備士について、資格の業務範囲拡大や、型式別で異なるライセンスの共通化などを進める方針が示された。同省は来年度中に現行の整備士制度を大幅に見直す方針だ。

航空整備の業務は、運航の合間に空港で軽微な修理や保守を行う「ライン整備」と、航空機を格納庫に入れてエンジン交換など詳細な点検を行う「ドック整備」に大別される。ただ、大型機の場合、ボーイング737型やエアバスA320型など、機体の型式に応じてライセンスを取得しなければならない。

一方、整備士資格は、ライン整備を担う「運航整備士」と、機体のすべてを整備できる「航空整備士」があり、養成期間もそれぞれ2~5年と異なる。国交省によると、ライン整備では、ブレーキ系統の調整など約4割の作業は、上位資格の航空整備士がカバーしており、航空各社は結果的に航空整備士をライン整備に回さざるを得ない現状がある。

一部の空港では、整備士不足が原因で増便や新規就航の対応が遅れた。このため、国交省は運航整備士の業務範囲を見直し、軽微な作業については機体の型式別ライセンスをなくすことで、限られた人材の有効活用を図る。

また、防衛省の訓令で定められた自衛隊の航空整備士資格についても、円滑に民間資格へ移行できるよう調整する。自衛隊から民間への転身を促し、積極的に受け入れを進める考えだ。(白岩賢太)

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