Infoseek 楽天

買収か寄付か、浮上した公選法違反疑惑 斎藤知事は弁明「PR会社社長はボランティア」

産経ニュース 2024年11月26日 7時0分

激戦となった兵庫県知事選を制し再選された斎藤元彦知事が、交流サイト(SNS)戦略などに携わったPR会社に報酬を支払ったとして、公職選挙法違反(買収)に該当する可能性が浮上している。斎藤氏は25日、SNSなどの選挙運動には「ボランティアとして代表が個人で参加した」と弁明したが、この代表には県の有識者会議委員の肩書があり、たとえ無償の選挙運動であったとしても、こうした立場の人からの寄付を禁じた別の条文に違反する恐れがあるとの指摘も上がっている。

事の発端はPR会社の代表が20日、SNSに「広報全般を任せていただいた」「私が監修者として、選挙戦略立案、アカウントの立ち上げ、コンテンツ企画などを責任を持って行った」などと投稿したことだった。撮影やライブ配信を自ら行うなどしたとし、「食べる暇も寝る暇もない程だった」とも記した。

総務省のホームページでは、選挙運動用ウェブサイトやメールの企画立案を行う業者への報酬について「業者が主体的・裁量的に選挙運動の企画立案を行う場合には、選挙運動の主体であると解される」と記載。「報酬の支払いは買収となるおそれが高い」としている。

兵庫県選挙管理委員会も「業者がSNSを主体的に運用し、それに対して報酬が発生していた場合、一般論として買収と考えられる可能性が高い」と説明。PR会社の代表には外部有識者会議「兵庫県地域創生戦略会議」委員の肩書もあり、選管の担当者は「代表が公選法の定める『特別の利益を伴う契約の当事者』であれば、無償であっても(寄付を禁じた)公選法に違反する可能性がある」と話す。

一方、斎藤氏の代理人弁護士は「依頼したのはポスター製作など法で認められたもの」「選挙活動の広報戦略の監修を担ってもらった認識はない」と説明し、「公選法に抵触する事実はない」との見解を示した。PR会社側はこれまでの取材に「対応できない」などとしている。

「コンサルは選挙運動しない」

選挙プランナーによる選挙コンサルタントが普及する中で、どこまでが公職選挙法違反になるのか。選挙コンサルティング会社「アスク」(東京)の社長で選挙プランナーの三浦博史氏は「選挙コンサルティングにおいて選挙運動はしないというのが大原則。あくまで戦略や戦術をアドバイスするのが仕事だ。有権者への働きかけは一切しない」と話し、今回のPR会社の動きに疑問を呈した。

問題となったPR会社の代表は今回、SNSで「広報全般を任せていただいた」などと発信。選挙カーに上って斎藤元彦氏が演説する様子を自ら撮影し、動画配信していたことも明らかになっている。

三浦氏によると、①特定の選挙で②特定の候補者について③投票行動を依頼する-の3条件がそろうと選挙運動とみなされるため、選挙プランナーは通常、そうならないよう注意を払う。また、今回のケースでは「(代表)本人に悪気はなかったと思うが、クライアントとの守秘義務が守られていない点でも問題がある」と指摘した。

今回と似た状況で公職選挙法違反が指摘されたケースとして、令和4年2月の長崎県知事選がある。違法な報酬約400万円を支払うなどした疑いがあるとして、大石賢吾知事と陣営の出納責任者、選挙コンサルティング会社社長が同罪で告発されたが、長崎地検は今年10月、いずれも嫌疑不十分で不起訴とした。

このとき立件が見送られた理由について、元東京地検特捜部検事の弁護士、郷原信郎氏は「誰の意思で報酬が払われたかはっきりせず、買収者と被買収者の関係が明らかにならなかった」と説明する。

郷原氏は今回、斎藤氏が直接PR会社の事務所を訪れて依頼し、同社が業務として広報全般を請け負ったと自ら明かしたことに注目。インターネット上では代表が斎藤氏の演説を配信用に撮影している動画も確認され、郷原氏は「明らかな選挙運動で、斎藤氏が自ら依頼したのであれば言い逃れできない」とみる。

また公選法は、自治体と利益を伴う契約を結ぶ当事者が、その自治体の首長選や議員選で寄付をしてはならないと定めている。PR会社の代表は兵庫県の有識者会議の委員を務めている。郷原氏は「県の事業を有償で請け負っていれば、ボランティアで今回の行為を行ったとしても、その費用相当分が寄付に当たる。立証も容易だろう」と指摘した。

兵庫県議会は静観「捜査機関の結論待つ」

斎藤元彦知事を巡ってはパワハラなど複数の疑惑が文書で告発され、県議会の調査特別委員会(百条委員会)で調査が進んでいるが、今回の知事選での公選法違反疑惑は審議の対象外。県議会関係者からは「捜査機関が動くべき事案」として百条委での審議には慎重な意見が目立つ。

告発文書は斎藤氏らの疑惑を7項目にわたって記載。百条委では疑惑の真偽に加え、匿名の告発者を特定して処分した県の対応について調べており、斎藤氏の失職、再選を経ても調査は継続している。

ただ、新たに浮上した疑惑に関して、県議会は今のところ静観する構えだ。公選法違反疑惑を百条委で調査するには、現在の委員会の審議項目に追加するか、新たに設置するかを議決しなければならない。だが県議会最大会派の自民党の幹部は「捜査当局の結論を待つべきで、捜査の邪魔にならないようにするためにも議会が動かない方がよい」との考えを示す。

第2会派の日本維新の会の県議団幹部も「警察と司法が判断すべきことだ」としつつ、「選挙区内の業者に依頼することは感覚的にはあり得ない。誰が指揮を執っていたのだろうか」などと疑問を口にした。立憲民主党の議員らでつくる会派「ひょうご県民連合」の議員は「前代未聞の騒動だ」とし、議会の代表質問などで取り上げていく可能性もあるとした。(西浦健登、倉持亮、藤木祥平)

この記事の関連ニュース