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形だけでは意味はない いじめ自殺対応で横浜市教委が失った信頼  神奈川 ノートの片隅で

産経ニュース 2024年9月3日 20時13分

この夏、高校野球の神奈川大会の取材を担当した。4回戦の桐光学園-川和戦。打撃の瞬間を写真に収めようとカメラのファインダーをのぞいていると、ファウルチップが後方の主審の胸に当たった。

その直後、1つの影が横切った。冷却スプレーを持った川和の一塁ランナーコーチが主審に駆け寄っていた。その行動はとても〝自然〟にみえた。川和は敗退したが、監督にこの場面について質問すると、「『形だけでは意味はない。心から行動するように』と普段から指導している」と答えが返ってきた。

報告書取り下げ

監督の言葉を改めて思い出したのは、横浜市教育委員会が市立中学2年の女子生徒自殺など子供の自殺に対して、法律に従うなどの形だけの対応すらできていない実態が明らかになったからだ。

市教委が8月23日に開いた記者会見で、女子生徒の自殺の直後に学校側が作成、提出していた「いじめ認知報告書」を市教委が取り下げさせていたことが新たに判明した。報告書提出や取り下げの経緯などの記録は残されておらず、いじめ自殺という重大な事案の報告書が公文書として適切に扱われていなかったことも発覚した。

この問題を発端に過去10年間に起きた市立学校の児童・生徒の自殺を弁護士チームが点検した結果、いじめによる自殺の疑いがある事案が複数確認されている。いじめの疑いで子供がなくなった場合に法律で義務付けられている調査が当時、行われていなかったが、遺族が望まなかったことなどを理由に市教委側は「不適切とは呼ばない」と抗弁してきた。

子供を亡くした直後の遺族が詳細な調査や、調査に伴う公表に消極的になる気持ちは理解できる。しかし、学校関係者がそれを盾に調査をしないのは別問題だ。

心からの行動積み重ねを

教育者として「苦しんでいる子供になぜ気づけなかったのか」「命がなぜ失われたのか」と向き合おうとは思わないのだろうか。一人の子供が生きた証しが失われてしまうとは思わないのだろうか。もし、時間がたって遺族が、やはり亡くなった真相を知りたいと気持ちが変わったとき、「遺族自身が最初に調査を希望しなかったので、もう分かりません」というつもりなのだろうか。

市教委が地に落ちた信頼を取り戻すには、子供を守る心からの行動を積み重ねるしかない。(高木克聡)

横浜総局の記者が日々、取材ノートに書き留めてきた課題意識、思いを通じてニュースの現場を伝えていく。

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