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楓ちゃん事件、20年目の捜査秘話 事件報じる新聞を配った犯人の「勘違い」と刑事の執念

産経ニュース 2024年11月16日 19時0分

奈良市内で平成16年11月、市立富雄北小学校1年の有山楓(かえで)ちゃん=当時(7)=が誘拐、殺害された事件は、発生から17日で20年。当時の奈良県警捜査1課長だった葛本英治さん(75)は、「被害者と家族の無念を絶対に晴らす」との一念で犯人を追った。退職後は見守り活動を続けている。「二度とあのような事件は起こさせない」。胸に刻むのは、強い決意だ。

「絶対つかまえる」

事件発生時のことは鮮明に覚えている。

16年11月17日午後7時ごろ、別の殺人事件を捜査していた葛本さんに、奈良西署管内で小学生の女児の行方が分からないと連絡が入った。母親が楓ちゃんと電話で最後に会話をした午後1時40分ごろから連絡が途絶え家族や学校で探しても見つからず、同6時45分頃に同署に届け出があった。

「時間がたち過ぎている。何らかの被害に巻き込まれたかもしれない」と直感し、すぐに捜査員に招集をかけた。同8時過ぎ、犯人から母親のもとに携帯電話で「娘はもらった」とメールが送られてきた。「どうか無事でいてほしい」。望みをつなぎながら捜査を進めたが、翌18日午前0時過ぎ、同県平群町の住宅地の道路側溝で遺体が見つかった。

現場の鑑識作業に区切りがついた後、楓ちゃんと向き合った。「小学生の女の子になんでこんなむごいことを。絶対につかまえる。待っといてや」。心の中で叫びながら手を合わせた。

12月14日、再び犯人から第2の犯行をほのめかすメールが届いた。発信元などをさらに絞り込み、連れ去り現場からそう遠くないマンションの防犯カメラに不自然にUターンする車も確認し詰めの捜査を急いだ。

Xデーは12月30日

大みそかまで1週間を切った年末の捜査会議。「年内に解決したい」という捜査員の強い思いから「Xデー」は12月30日と決まった。

容疑者は同県三郷町に住む新聞販売員の小林薫元死刑囚=逮捕当時(36)。県警は当初、朝刊を配り終えた直後に任意同行を求める予定だった。配達前だと、新聞を配る仕事があるなどの理由で同行を拒まれ、配達を装って逃走する可能性があったためだ。

そして30日、予想もしない展開が待っていた。午前2時過ぎ、「課長、えらいことです。事件のことが新聞に出ています」と捜査員が駆け込んできた。

朝刊1面トップに「きょうにも重大局面 不審人物浮かぶ」との大見出し。まさに容疑者が配る新聞だった。「この朝刊を間違いなく見ている。もう逃げたかもしれない」。捜査員を駅などに張りこませた。

一方、新聞販売店には配達を終えた小林元死刑囚がいた。任意同行を求めると逃げようともせず淡々と応じた。この時の状況について本人は「新聞を見たとき、自分にはまだ捜査の手が及んでいない。県警は別の人間を犯人と間違えていると思った」と話したという。事件発生から44日目の逮捕だった。

あれから20年がたつが、「住民の命と安全を守る」との思いは変わらない。平成21年に県警を退職し、地元・橿原市内に青色防犯パトロール隊を結成した。75歳の今も、早朝には毎日1時間以上かけて住民と地区を歩き、夕方や夜間に週2回ほど自家用車に青色灯をつけて小学校の周囲などをまわる。

「子供を守ることに定年はない。体が続く限りやめることはありません」(小畑三秋)

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