首都圏を中心に「闇バイト」で集められた実行役らによる強盗事件の発生が止まらない。警察当局は、これまでに実行役ら約40人を逮捕し、指示役らから脅されているなどしている闇バイトの応募者らの保護も宣言している。ただ、手を染める若者らは、後を絶たない。なぜ「危ない橋」を渡るのか。かつて闇バイトに応募した男性(32)に、その実情を取材した。
パチスロで困窮
《短期間で高収入の仕事》。4年前の令和2年夏、福井県に住んでいた男性はツイッターの書き込みに興味をひかれた。当時、食品関係の仕事に就いていたが、ストレスからパチスロにのめり込み、借金の額は300万円にまで膨らんでいた。カネになる「副業」はないか。そうして見つけたのが、この書き込みだった。
まともな仕事ではないことは、うすうす気がついてはいた。だが、意を決して応募した。すると、指示役の男から「返信」があり、秘匿性の高い通信アプリ「テレグラム」に誘導された。男がいう仕事は、やはりオレオレ詐欺などで高齢者宅に現金をとりにいく「受け子」だった。
だが、借金を返すことで頭がいっぱいで、少し悩んだものの、決意を固め、言われるがまま、免許証の画像や自分の口座番号を送り、実家の住所も伝えた。
「よっぽど下手じゃなければ大丈夫」。男からは逮捕のリスクはないとして励まされ、借金があることを伝えると「報酬から返せばいい」と30万円貸すとも言われた。その30万円は伝えていた口座に振り込まれた。やりとりの過程で、一度、グループの別の男と東京都内で顔を合わせたが、その際の交通費も振り込まれた。「今思えば、逃げられない状態に追い込んでいたのかもしれない」。男性は振り返る。
3回目の犯行で逮捕
最初の「仕事」は、その年の9月だった。福井から4日間の日程で関西に向かうように命じられた。滋賀で初めて住宅のインターホンを押す際は少し躊躇したが、借金返済のためと身を奮い立たせた。イヤホンを装着し、指示役の男との電話はつないだままで、指示通りに、応対した高齢女性からキャッシュカードをだまし取った。
女性宅から離れると緊張から汗が出ているのが分かった。近くのATMから上限額の現金を引き出し、男から言われていた報酬(詐取した現金の5%)を抜いて指定された京都駅のコインロッカーに入れた。
その日はホテルに宿泊。宿泊代も、振り込まれる予定だった。大阪で2件目の犯行も重ねたが、3件目の家のインターホンを押したところで声をかけられた。私服警察官で、その場で逮捕された。つないでいた男との電話はいつの間にか切れていて、警察署に到着した頃にはテレグラムのやりとりも、すべて消えていた。指示役がその後の捜査で判明したかも分からない。
詐欺と詐欺未遂の罪で起訴され、懲役3年の判決を受けた。勤務先は懲戒解雇。ようやく被害者への申し訳ない気持ちが芽生え、服役中は日記に反省や更生を誓う言葉をつづり続けた。昨年8月に出所。ギャンブル依存症患者らを支援する団体に身を置き「社会復帰」の機会を模索している。「今もどこかで闇バイトの犯罪が続いていると思うと悔しい」。男性は絞りだすように語った。(梶原龍)