猛暑の中、1カ月以上マンションの一室に飼い猫を放置し、瀕死(ひんし)の状態にさせたとして、大阪の動物愛護団体が、この部屋に住んでいた元飼い主を動物愛護法違反(遺棄)罪で大阪府警に刑事告発したことが3日、関係者への取材で分かった。告発は昨年10月で、受理した府警生野署が捜査を進めている。
告発したのは、NPO法人「アニマルレスキューたんぽぽ」(大阪府能勢町)。告発容疑は昨夏、大阪市生野区巽南のマンションの一室に、餌や水を一切置かないまま飼い猫を置き去りにし、昨年8月31日までの約1カ月間、命の危険にさらしたとしている。
遺棄が発覚したのは昨年8月30日。部屋の住人が家財道具を置いたまま勝手に退去し、連絡が取れなくなったため、マンション管理会社が部屋を確認したところ、猫を発見した。保護のため同NPOに連絡した。
翌31日に部屋に駆け付けた同NPO代表の本田千晶さんによると、室内には大量のビールやチューハイの空き缶、弁当などの食べかすが散乱。連日の猛暑で室内は40度を超える暑さだった。猫はトイレの便器の横で倒れた状態で見つかった。飼い主が餌や水を置いていた形跡はなく、劣悪な環境下で1カ月ほど放置されていたとみられる。
動物病院で救命に当たった獣医師の診断は《全身ショック状態》《極度の脱水》《亡くなる寸前の状態》。頭や足には打撲や裂傷があり、元飼い主に暴力を振るわれていた可能性もうかがえたという。
虐待摘発件数は増加傾向、通報相次ぐ
トイレの便器の横でぴくりとも動かない猫を見つけたとき、NPO法人「アニマルレスキューたんぽぽ」代表の本田千晶さんは涙が止まらなかった。胸がかすかに動いているのを確認し、動物病院へ。元気な姿に戻る奇跡を願い、「ミラクル」と名づけられた。懸命な看病によって少しずつ回復。意識を取り戻した当初は攻撃的だったが、今では元気に毛づくろいし、甘える姿を見せるようになったという。
無責任な元飼い主によって、死の淵に立たされたミラクル。本田さんは「部屋にはキャットフードは一切なく、残飯を食べて生きてきたのだと思う」と話し、「動物は『かわいい』だけでは飼えない。20年先の自分の体力や生活の安定を考えて、飼えない人は飼わないのが愛情だ」とも強調した。
動物虐待の摘発件数は近年増加傾向にある。警察庁によると、令和5年に全国の警察が動物愛護法違反で摘発した動物虐待の件数は181件。平成25年は36件で、約10年間で5倍に増えた。背景には動物愛護意識の高まりで通報が増加したことがある。今回の事件のように声を上げられない動物に代わってNPOや弁護士が刑事告発する動きも広がる。
令和2年6月施行の改正動物愛護法で動物虐待の罰則は強化され、殺傷に対する罰則は5年以下の懲役または500万円以下の罰金に引き上げられ、虐待と遺棄は100万円以下の罰金のみだったが、1年以下の懲役が加わった。
「たんぽぽ」副理事長で弁護士の松尾吉洋さんは「ペットを別の場所に捨てるだけではなく、今回のように隔離された状態に置くことも『遺棄』に該当する。悪質な動物の虐待事案に対応するため今後も捜査機関や自治体と連携していきたい」と話した。(木津悠介)