自民党派閥のパーティー収入不記載事件は19日、東京地検特捜部が国会議員らを一斉に起訴してから1年が経過した。この間も、特捜部は政治資金パーティーを巡る刑事告発を受けて捜査を継続。不起訴処分が大半だが、捜査過程で新事実が判明して立件したケースもある。党の地方組織にまで波及した事件は、問題の根深さをうかがわせる。
「派閥の不記載事件と比べ規模は小さいが、起訴すべき事件を粛々と進めた」
ある検察幹部は事件を振り返った。
念頭にあるのは、東京都議会自民党の政治団体「都議会自民党」がパーティー収入に絡む収支計約6300万円分を政治資金収支報告書に記載していなかった事件。特捜部が今月17日、会計担当者を政治資金規正法違反(虚偽記入)の罪で略式起訴した。派閥の不記載事件と同様の構図が一部の地方組織・地方議員にも根付いていたことをうかがわせ、国会議員のみの問題ではないことを示した。
端緒の告発と別内容で立件
特捜部は自民党のパーティー収入不記載事件で昨年1月19日に3派閥の国会議員らを一斉起訴したのを皮切りに、都議会自民党も含め、国会議員や派閥の会計責任者ら計12人を起訴・略式起訴した。昨年8月に略式起訴された堀井学元衆院議員は、不記載に加えて有権者に香典を配るなどした公選法違反事件も発覚した。
捜査の入り口となったのは大学教授らの刑事告発だ。
ただ、教授の告発は、あくまで収支報告書に大口のパーティー券購入者の「内訳」を記載していなかったことに関するもの。パーティー収入自体の不記載を問うものではなく、特捜部は悪質性が低いことなどから、いずれも不起訴とした。
実際に立件されたのは、所属議員らに課されたパーティー券の販売ノルマを超えた分のパーティー収入そのものが記載されていなかった事件。教授の告発内容に比べて、より悪質性が高いと判断した。告発を受けて特捜部が関係者を聴取し、提出を受けた関係資料を精査する中で浮かび上がった事件だ。
告発の対象や内容は、特捜部が立件したものとは一致しないが、甲南大の園田寿名誉教授(刑事法)は、「告発を受けた捜査の過程で、捜査機関が別の犯罪を認知できる場合もあり、意義がある」とする。
時間を要し現場の重荷に
ただ、この1年で特捜部が処理した自民党の関連団体や所属議員のパーティーを巡る刑事告発は、不起訴処分が大半を占めている。
特捜部は昨年12月26日、政治資金規正法違反罪で告発されていた石破茂首相を含む国会議員や秘書ら計65人を不起訴とした。これまで岸田文雄前首相ら多数の国会議員や秘書ら延べ100人以上が不起訴となっている。
多くは特捜部が昨年1月の段階で、不記載額の多寡や共謀の有無などを精査した上で事件化を見送っており、不起訴は当然ともいえた。
自民党のほとんどの派閥を解体に追い込んだ不記載事件の端緒となった告発。捜査当局の受け止めは複雑だ。
検察OBは不記載事件の捜査は時間がかかり、「捜査現場の重荷にもなっている」と指摘。「特捜部は個々の告発にどこまで捜査労力をかけるべきか精査すべきだ。他にやるべき事件ができなくなってしまっては本末転倒だ」としている。(桑波田仰太、久原昂也、星直人)