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凶弾の記憶 伝え続ける 一部始終を撮影した奈良の村議の思い 安倍元首相銃撃2年

産経ニュース 2024年7月8日 11時30分

マイクを握った安倍晋三元首相は、突如響いた爆発音とともに倒れたー。令和4年、安倍氏が銃撃された現場に居合わせ、一部始終をビデオカメラで撮影した男性がいる。奈良県山添村議の大谷敏治さん(48)。当時の映像は、事件を伝える貴重な記録として多くのメディアで流された。あれから8日で2年。「事件を語り継ぎたい」という思いは、今も変わらない。

逡巡後の決意

「『もう2年』という気持ちと、『まだ2年』という気持ち。自分には、両方があります」。2年という時が流れる中、事件についての記憶が薄れていく一方、当時のことが脳裏に鮮明に浮かぶ瞬間もあるという。

4年7月8日。参院選の投開票を2日後に控え、自民党候補の応援のため、演説会場だった奈良市の近鉄大和西大寺駅前を訪れていた。ビデオカメラの撮影が趣味の大谷さんは、安倍氏が応援に駆けつけると聞いていたため、カメラ片手に演説開始の1時間前から場所取りをしていた。

「安倍さんは独特なオーラがあるとともに、優しげな雰囲気を持った方でした。交流サイト(SNS)に載せるために、少しでもかっこいい姿を撮ろうと、安倍さんの演説が始まってもズームをアップしたり引いたりしていました」

そんな中、タイヤが破裂するような爆音が2回聞こえた。気がつけば安倍氏は倒れ、周りにいた新聞記者があわてて駆け寄っていくのが見えた。ここでカメラを止めるべきか。周囲が騒然とする中で逡巡したが、思い直した。「この事件の全容を記録しないといけない」。現場にブルーシートがかけられ、救急車が到着するまで約40分間、ひたすらカメラを回し続けた。

問い続ける課題

そのときの映像は、要望があったマスコミ各社に提供し、安倍氏の死亡から四十九日がたったのを機に、カメラから消去した。「報道で多くの人の目に触れ、一定の役割を終えたと思ったから」。ただ、自分の中に残ったものもある。「事件を風化させてはいけない」という使命感だ。

事件直後は、多くの人から当時について聞かれ、積極的に話すようにしていた。1年過ぎたころから、あまり聞かれることがなくなり、時折話題にのぼっても「大変でしたね」とねぎらわれる程度になった。

安倍氏を殺害したとして起訴された山上徹也被告(43)が、家族が困窮する原因となった世界平和統一家庭連合(旧統一教会)に恨みを持ち、関係のある安倍氏を狙ったという趣旨の供述をしていたことから、「宗教というセンシティブな問題もあり、事件について深掘りしてはいけない、聞いてはいけないという雰囲気に世間がなったのかもしれません」。

しかし、だからこそ、「この問題について政治家として、人として、目をそらしてはいけない」と考え、今後も現場に居合わせた「証言者」として、事件について語り続けるつもりだ。

「どんな理由があっても、暴力に訴えることは許されることではありません。ただ、彼自身の孤立や孤独を考えると、そうなり得る人たちは、ほかにいるかもしれない。自分たちに何かできることがあるのかもしれない。ずっと問いかけていかなければならない問題だと思います」(木村郁子)

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