三菱UFJ銀行の貸金庫から金品が盗まれた事件で、同行は昨年10月、貸金庫で預かった金品の窃盗被害を把握した後、早い段階から警視庁に相談を始めた。しかし貸金庫の性質上、同行は中に何が入っているか把握していない上、顧客側も客観的な記録を残していないことから、事件化に時間がかかることも予想された。立証の後押しとなったのは、皮肉なことに、警視庁捜査2課に窃盗容疑で逮捕された同行の元行員、今村由香理容疑者(46)が盗んだ金品を補塡し発覚を免れるために残していた写真などの記録だった。
紛失物の確認容易に
捜査関係者によると、警視庁捜査2課が押収した今村容疑者のスマートフォンには、金品を盗み出す前の貸金庫のキャビネット内の写真が多数残っていた。利用者が来店し貸金庫を利用する際、犯行に気付かれないように原状回復しておく必要がある。そのために残しておいた写真だったとみられる。
今村容疑者は同行の内部調査に窃盗を認めていたが、刑事事件化するには、いつ、なにを、どのように盗んだかを立証する必要がある。今村容疑者が写真を残していたことで、なくなったものの確認が容易になり、捜査2課は質店に質入れしたり買い戻したりした取引記録なども加味し、証拠を固めていった。
問い合わせに本人対応
捜査2課の捜査や同行の内部調査では、約4年半にわたって窃盗を続けた今村容疑者の手口が明らかになってきている。
同行によると、貸金庫を開くには、利用客と銀行がそれぞれ所持する鍵で2つのロックを解除する必要がある。ただ、同行では利用者の紛失に備えて、スペアキーが用意されており、封をして担当者の手元にある「鍵管理機」で保管されていた。また、貸金庫を開閉するとコンピューター上に記録が残る仕様にもなっていたという。
通常では内部のものを盗み出すことはできないが、今村容疑者は貸金庫業務を統括する立場を悪用していた。封を外した痕跡を補修した上、記録が残るコンピューターも電源を切るなどの対策をしていた。
利用者から「預けた現金が入っていない」と申告があっても、今村容疑者本人が対応し、銀行側には「お忘れ物があった」などと言い逃れをして話を切り上げていた。
同行は貸金庫の運用を見直し、再発防止を図るとしている。(外崎晃彦)