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説得応じずコンビニATMで札束握りしめ… 記者が遭遇した特殊詐欺の「現場」

産経ニュース 2024年10月7日 8時0分

全国での認知件数は1万9038件、被害総額は452億6千万円-。警察庁が公表している令和5年の特殊詐欺の発生状況だ。1日当たり50件以上発生している計算で、被害者の多くは高齢者。記者が偶然遭遇したのも、卑劣な犯罪集団が高齢者を「毒牙」にかけようとする瞬間だった。

スマホ手に取り乱し…

猛烈な残暑が続いていた9月の昼下がり。東京23区内の住宅街にあるコンビニエンスストアに入ると、異様な光景が目に留まった。

店内は閑散としており、客はATM(現金自動預払機)の前に立つ80代ぐらいの高齢男性のみ。その横で、アジア系とみられる女性店員2人が、心配そうに見つめていた。

男性はスマートフォンを耳に当て、ひどく取り乱した様子でATMの操作を試みている。電話の向こうから指示を出されているようだった。

警察取材で何度も耳にした、特殊詐欺グループの手口としか思えない。女性店員らも異変を感じつつ、言葉の問題もあってか、男性に強く注意できないでいた。

「おじさん、それ詐欺ですよ!」

思わず声をかけた。だが、男性は「そんなことないよ、さっき区役所から電話があったんだから」。実在する大手メガバンクの名前を挙げ「ここの口座に振り込まなきゃいけないんだ」とも。なかなか耳を貸そうとしない。

なぜ役所からの電話でお金を払わなければいけないのか-。傍から見れば荒唐無稽な話だが、何人もの人物が代わる代わる電話で「役」を演じ、信じ込ませるのが特殊詐欺の常套(じょうとう)手段だ。男性が電話で話している相手は、銀行員か何かをかたっているのだろう。

そうする間にも、男性は引き出した1万円札の束を手にし、さらに「あと1回引き出さないと」などとつぶやいている。男性を引き留めながら、女性店員に110番通報を依頼した。

警察官の姿でようやく

そうこうしていると、店に若い男性客が入ってきた。我々のやりとりを見て、高齢男性に対し「かかってきた電話、役所の番号だと確認した?」と、助け舟を出してくれた。

「あっ」という表情で男性が取り出した紙片には、市外局番で始まるメモ書きが。スマホで数字を検索すると「架空請求」の4文字を示すウェブサイトが表示された。

高齢男性にスマホを見せつつ「やっぱり詐欺ですって」と伝えると「俺、だまされてるの?」と半信半疑の面持ちながら、ATMを離れてくれた。

間もなく、コンビニ前に制服姿の警察官が10人近く駆け付けてきた。制服を見た男性は、ようやく現実を理解したようだった。後ほど警察署に連絡すると、男性にかかってきた電話は「特殊詐欺グループからのもので間違いない」とのことだった。

止むことのない特殊詐欺を受け、警察庁と金融庁は令和4年、ATMを利用中に通話をしないよう促す「ストップ!ATMでの携帯電話」運動の全国展開を決定。現在、警視庁もポスターをつくるなどして「通話しながらATMを操作している人を見たら、声をかけていただき、警察に通報をお願いします」と呼びかけを行っている。

仕事柄、特殊詐欺の手口はよく知っているつもりだった。ただ、ターゲットにされた被害者が狼狽(ろうばい)する姿を実際に目の当たりにして、改めて撲滅の必要性を痛感した。(宇都木渉)

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