社会問題化して久しい特殊詐欺のうち、古典的な「オレオレ詐欺」が今年1~5月で1689件発生し、被害総額は85億円と前年同時期(48億5千万円)から75・2%プラスの大幅増となったことが、警察庁の統計で分かった。発生件数自体は伸びておらず、1件当たりの被害額が高額化しており、警察当局は警戒を強めている。
全体の半数近くに
電話で息子などを装い「おれ、おれ」と呼びかけるオレオレ詐欺は平成15年以降、発生が目立ち始め、金融機関の口座にカネを振り込ませる手口から、16年からは「振り込め詐欺」と呼ばれるようになった。
同年には1万4874件発生し、被害総額は191億2千万円。最も多かったのが「車で人をはねてしまった」とする交通事故(業務上過失傷害事件など)の示談金名目で約6割を占めていた。
その後、公的機関の職員を装い「還付金があります」と言ってATMを操作させ現金を振り込ませたり、役割を決めて代わる代わる架空の投資話を持ちかけるなど、だましの「口上」が多様化。23年からは一連の犯罪を一括し「特殊詐欺」と呼ぶようになった。
警察庁によると、今年1~5月に7389件発生した特殊詐欺の被害総額は185億1千万円。このうち半数近くをオレオレ詐欺が占めた。また昨年、都内で発生した特殊詐欺2918件のうち、オレオレ詐欺は819件と最多だった。
示談金はなり潜め
平成26年には5557件発生し174億千9万円の被害が出たオレオレ詐欺は、令和に入り徐々に減少傾向にあった。
元年の被害総額は117億6千万円(発生6725件)だったが、2年は67億9千万円(2272件)、3年は90億6千万円(3085件)と久々に100億円を割り込んだ。その後はやや増加し、5年は133億4千万円(3955件)となっていた。
警察庁によると、令和に入ってから最も多い手口は「会社の小切手が入ったかばんを置き忘れた」などと噓をつく損失補塡(ほてん)金名目。かつて主流だった示談金名目は昨年は25件、今年1~5月では8件と、なりを潜めている。
授受も振込型に?
オレオレ詐欺といえば、現金受け取り役の「受け子」や電話をかける「架け子」を闇バイトで募り、トカゲの尻尾切りのように使い捨てにするのが定番だ。
未成年が軽い気持ちで荷担することも多く、警察幹部は「近年は少年少女の啓発に重点を置いた対策が効果をあげている」とする。
ただ最近は、交流サイト(SNS)を使ったロマンス詐欺など「非対面式」の詐欺が急増。こうした流れを受けてか、オレオレ詐欺も、受け子が直接受け取る「現金手交型」が影を潜め、昔ながらの「振込型」が今年に入り増えているという。
警察庁幹部は「詐欺グループの原点回帰か一過性のものかは現在、分析中」とした上で「原因は謎だが、金銭的被害の拡大に焦点を絞った対策が必要だ」と話す。
警視庁OBは「投資など、もうけ話でだます詐欺が確実に増える中、親の愛情に訴える卑劣な犯行も中々、なくならない。オレオレ詐欺や振り込め詐欺は完全に〝死語〟にしなければならない」と指摘している。