性暴力被害に遭った女性を支援する大阪府松原市の「性暴力救援センター・大阪SACHICO(サチコ)」が存続の危機に陥っている。相談から診療、警察との連携までを担う全国初の「ワンストップ支援センター」としてNPO法人が運営してきたが、医師の不在で今春以降は全く診療できない状況となった。大阪で唯一の「女性の駆け込み寺」の存続に向け、性被害の当事者でつくる支援団体は12月に府議会に要望書を提出する。
サチコは平成22年に民間の阪南中央病院(松原市)を拠点に開設。婦人科医や精神科医など常駐する女性支援員が24時間無休で被害女性の電話相談を受け付け、診療にも応じてきた。今年3月までの14年間で5万2198件の電話相談に対応。初診人数は累計で3723人に上るが、このうち約6割は20歳未満だ。
交流サイト(SNS)で知り合った相手からの性暴力、職場でのセクハラ、保護者による性的虐待…。被害女性からの訴えは多岐にわたり、場合によっては警察や児童相談所などへの橋渡しを担ってきた。緊急性のある来所者には性感染症の検査のほか、必要があれば人工妊娠中絶手術などを行い、警察の捜査協力に備えて血液や尿などを採集・保管している。
診療はこれまで阪南中央病院の医師らが業務の合間に対応してきたが、運営は国と府の補助金(年計約1500万円、令和4年度)頼み。医師の人件費は補助金を回す余裕がなく、病院側の負担となっていた。近年は医師の残業規制で休日や深夜の対応も難しくなり、運営法人で理事長を務める久保田康愛(やすえ)医師は「病院の診療協力が得られないようになった」と明かす。
このため、サチコの年間受診者は令和4年度の406人から、昨年度は121人にまで減少。今年4月からは対応できる医師が不在となり、診療機能が休止状態に追い込まれた。以降は相談業務のみを続け、診察は他の医療機関に依頼せざるを得ない状況だ。
病院内のスペースを無償で使用してきたサチコの事務所も、来年3月末までに退去するよう病院側に求められている。運営法人は中長期的な支援が受けられる病院に移転できるよう府に要望するなどしているが、全くめどは立っていない。
久保田理事長らは10月、大阪市内で窮状を訴える記者会見を開催。性暴行の緊急処置は72時間以内の対応が必要とした上で、「現状では、そうした対応ができないところまで追い込まれている。親や学校の先生に被害を言えない女性は多くいる。声なき声を聴き、被害者に寄り添う支援を続けたい」と強調した。
サチコ存続に向け、かつて性暴力被害に遭いサチコに駆け込んだ女性たちも支援団体を結成。約9千人分の署名を集め、12月に大阪府議会に要望書を提出する予定だ。支援団体の関係者は「サチコは24時間いつでも相談できる心のよりどころ。泣き寝入りする被害者が増えないためにも、存続が必要だ」と訴えた。
ワンストップ支援センター
性暴力の被害者が、医療や心理、法律相談などの専門的な支援を総合的に受けられる。内閣府によると、平成30年には全都道府県に設置され、現在は全国で52センター。産婦人科医療を提供できる病院に置かれた「病院拠点型」、病院から近い場所に相談センターを置く「相談センター拠点型」、相談センターと複数の病院が連携する「連携型」などがある。相談件数は年々増え、令和5年度は前年度比9・5%増の6万9100件。(鈴木源也)