「誰かー」。太陽がぎらぎら照り付けていた9月2日午前9時半ごろ、東京都港区芝大門のオフィス街に助けを求める声が響いた。ビルの解体工事現場横の路上で、上から落下してきたコンクリート片が下にいた警備員の横山雅則さん=当時(67)=の頭に直撃し、出血。病院に搬送されたが死亡した。安全管理の技術が進んだはずの現代でも、落下してきた人や物による事故は後を絶たない。
割れたヘルメット
警視庁愛宕署によると防犯カメラの映像では、事故発生時、横山さんはもう1人の警備員と掃き掃除をしており、しゃがんだ状態だったという。突如として15メートルほどの高さから大きなコンクリート片が落下し、横山さんの脳天に直撃。頭蓋骨が割れた。
事故直後の現場には、横山さんが着用していたヘルメットとコンクリート片が複数散乱。ヘルメットは形を保ってはいたが、真っ二つに割れていた。
ビルは防音パネルで全体を覆われていたものの、コンクリート片が飛び出してきた箇所はその衝撃でパネルが外れかかり、今にも落下しそうな状態だった。
現場近くで電気工事をしていたという男性は、「(横山さんは)頭を道路に向けて倒れていた。5分ほどの心臓マッサージの後、搬送されていった」と話し、心配そうな表情を見せた。
現場はオフィス街で、正午が近づくと多くの人がビルの付近を通行。誰もが「コンクリート片は自分に当たっていたかもしれない」とおびえたことだろう。
飛び降り自殺でも
この事故の2日前には横浜市で、JR横浜駅につながる商業施設から女子高校生が飛び降り、下を歩いていた女性を巻き込んで2人が死亡した。
生徒は11月25日、重過失致死の疑いで容疑者死亡のまま書類送検された。神奈川県警が、生徒は他人を巻き添えにする可能性を予測でき、その上で自ら転落したと判断したためだった。
同様の飛び降り自殺による巻き込み事故は他にも複数起こっている。都内では、豊島区南池袋の百貨店で平成19年に、新宿区歌舞伎町のビルで30年に発生。巻き込まれた歩行者はそれぞれ死亡、右腕を骨折する重傷を負った。
9月には日野市が管理する緑地でイチョウの枝が折れて落下し、下敷きとなった30代男性が死亡した。この事故を受けて、国土交通省は11月、都市公園などで起きた倒木事故を把握するための初の全国調査を実施している。
上空から人やコンクリート片、人が亡くなるほど大きな木の枝が落ちてくる状況など、どうやって予期すればよいというのか。ほんの少しタイミングや場所がずれていれば、被害はより大規模になっていた可能性もある。
責任はどこに
愛宕署は、横山さんの死亡事故についてはいまだ捜査の途中で、直接の死因も、工事を行っていた会社の過失も未確定としている。
横浜駅や南池袋の事故のように、飛び降り自殺により他者を巻き添えにした場合に容疑者死亡のまま書類送検されれば、必然的に不起訴となる。被害者本人およびその遺族らの無念さは察するに余りある。
街を歩くときに、自分の周囲だけではなく、頭上にも気を配らなければならないのだろうか。危険だと分かっていても、歩行中にもスマートフォン(スマホ)を見てしまう忙しい現代人にとって、頭上の危険を察知するのは簡単ではない。
場所や状況は違えど高所から人や物が落下し被害者が出ている以上、おのおのの会社や施設、行政では安全対策の見直しが必要だろう。これ以上罪のない犠牲者を出さないためにも、「落ちてこない」仕組みづくりを再考してほしい。(堀川玲)