今年首都圏などで相次いだ闇バイトによる強盗事件。一連の事件では実行役の多くが逮捕された一方で、指示役とされる人物の特定など、いまだ全容が明らかになっていない。「早く終わってほしい-」。10月に千葉県市川市内で起きた強盗致傷事件の被害女性(72)は、今も消えぬ苦しみを抱え生活している。卑劣な犯罪者をいつまでも野放しにすることは断じて許されない。
あまりにも無残な光景
私が初めて女性を取材したのは事件から2日後の10月19日だった。女性は写真を見せながら、被害の状況を教えてくれた。そこに写っていたのは、あまりにも無残な光景だった-。
家の中が派手に荒らされ、割れた窓ガラスが散乱。押し入れに置いてあったというダイヤル式の金庫も壊され、近くにハンマーのようなものが落ちていた。
女性が異変に気づいたのは17日午前7時ごろ、夜勤の仕事から戻ったときだった。玄関のドアが開いており、室内が様変わりしているのを見て「ただごとではない」と110番通報。娘(50)が就寝中に実行役に襲われ、連れ去られていることも判明した。
痛々しい娘の顔…
発覚から約15時間後の17日夜、娘は埼玉県内の宿泊施設で監禁されているところを警察に保護されたが、再会後の姿は見るに堪えないほど、痛々しいものだったという。
女性は声を詰まらせながら、「顔にはいっぱい青たん(あざ)ができていて…。あまり細かいことを娘に聞くと、こっちがつらくなっちゃうから。大変な思いしたねとだけ伝えた」と当時を振り返った。
娘は全身に暴行を受け、目の下の骨を折るなど全治6カ月以上の重傷を負った。そんな中でも娘は「あなたじゃなくてよかった。お母さんが襲われていたら、死んでいたかもしれない」と逆に高齢の母を気遣ったという。
指示役の特定難航
警察庁によると、8月以降に首都圏1都3県で発生した闇バイトに絡む強盗事件は19件(今月5日現在)。市川の事件を巡っては、千葉地検が11日までに強盗致傷や逮捕監禁などの罪で、藤井柊被告(27)ら実行役の3人全員を起訴した。
しかし、秘匿性の高い通信アプリで連絡を取り合っているケースが多く、指示役の特定は難航している。闇バイトによる犯罪を食い止めるべく、政府は警察官が架空の身分証を使って捜査にあたる「仮装身分捜査」を来年早期から導入することを目指しており、真相究明へ期待がかかる。
「早く捜査終わって」
市川の事件発生から2カ月、改めて被害女性を取材した。就寝中に襲われた娘は今も恐怖で眠れず、睡眠薬が手放せないという。女性は「とにかく犯人が腹立たしい。早く捜査が終わってほしい」と強く願うとともに、「皆さんもニュースの中の出来事だと思わずに、自分たちでできる対策をしてほしい」とおもんぱかった。
金品だけでなく、平穏に暮らす人々の日常までもを奪った犯人らの罪は相当重い。被害者の苦しみもつゆ知らず、指示役らは悠々自適に過ごしているのだろうが、そんな彼らにもまもなく終わりがくることを切に願う。(塚脇亮太)