北九州市小倉南区のマクドナルド店舗で中学3年の男女が刺され死傷した事件は、発生から6日目の19日、福岡県警が近くに住む男を殺人未遂容疑で逮捕し、大きく動いた。男は自宅で騒音トラブルを引き起こし、今年に入って2度、警察官が駆けつける騒ぎにもなっていた。地域には容疑者が逮捕されたことへの安堵(あんど)が広がる一方、若い命が失われたことへの憤りや動機の解明を求める声が上がった。
逮捕された同区長尾の無職、平原政徳(ひらばる・まさのり)容疑者(43)の住む家は、現場となった店舗から約1キロ離れた一戸建ての多い住宅街の一角。近くの建設現場で作業していた40代男性によると、19日午前10時ごろ、ガラスが割れるような音が響き、直後に「確保」と叫ぶ声が聞こえたという。
近所の無職男性(74)によると、平原容疑者はかつて家族と暮らしていたが、最近は一人暮らしだった。いつもサンダル姿で、早朝に玄関前に座ってたばこを吸う姿をたびたび目撃。あいさつしようとすると、関わりを避けるように「顔を下に向けた」という。
容疑者宅からはマイクを使ったような大音量で「うおー」と叫ぶ声や、歌っているような声が聞こえることもあり、今年の夏前ごろには「家の中から外に向けて爆竹を投げ、煙が上がった」。福岡県警によると、騒音の訴えを受けて警察官が5、10月の計2回、容疑者宅に駆けつけていた。
近くに住むパートの女性(67)も朝、玄関前に座ってたばこを吸う平原容疑者をたびたび目撃していたといい、「犯人だったと思うと恐ろしい」と語った。
「非常に雑な犯行」
なぜ、面識がなかったとみられる中学生を襲ったのか。新潟青陵大大学院の碓井真史教授(社会心理学)は「近所のファストフード店を犯行現場に選び、サンダル履きで車に乗っていくというのは、捕まることを全く恐れておらず、非常に雑な犯行だ」と指摘。犯行後もあわてるそぶりはなかったとみられるが、「普通なら顔を隠し、一目散に逃げていく。本人は悪いことをしているという気はなく、むしろ刺した段階で『成し遂げた』という感覚があったのでは」と推測する。
また、「孤独と絶望感があり、世の中の幸せそうな人に恨みを感じていたのでは。恵まれた家庭のように見える子供に一方的に恨みや怒りを感じ、狙った可能性もある」とした。
動機の解明求める
地域に住む人たちには安堵が広がる一方、卑劣な犯行への怒りをあらわにする人もいた。
亡くなった中島咲彩(さあや)さん(15)の同級生の父親(46)は時折声を震わせ、「この事件をうやむやにしてはならないと思っていた。この数日間、ずっと胸を締め付けられていた。動機を聞いても理解はできないと思うが、このような事件をなぜ起こしたのか話してほしい」と語った。
近くに住む会社員、幾野桂輔さん(49)は「この数日間は怖かったので、容疑者が捕まってほっとした。亡くなった方はまだ若くて未来のある人。なぜ殺されなければならなかったのか、家族の気持ちを考えるとつらい」と憤った。(鈴木文也、木下倫太朗)