当事者に同意なく撮影する盗撮の被害が社会問題化する中、摘発件数が増加を続けている。盗撮と認定する範囲を明確化した新法が昨年施行されたことなども追い風になっているが、スマートフォンの普及や小型カメラの流通で犯行は容易になっており、実際の被害は「さらに多い」との指摘もある。画像や動画をインターネット上に公開する悪質な事例も後を絶たず、専門家は再犯を防ぐ仕組みの構築を訴える。
罰則を強化
ドアポストから差し入れた自撮り棒の先にスマホを取り付け、女性が暮らす東京都世田谷区の集合住宅の室内を盗撮したとして、警視庁世田谷署は今年11~12月、TBSホールディングス子会社の男を摘発した。適用したのは、昨年7月に施行されたばかりの性的姿態撮影処罰法だった。
盗撮事件の捜査では従来、都道府県ごとの迷惑防止条例違反などが適用されてきた。ただ、条例は自治体ごとに規制対象が異なる上、盗撮行為そのものを直接処罰できないものもあるため、住居侵入罪などにしか問えないケースもあった。
これに対し処罰法では、盗撮▽盗撮した画像などの公開▽公開目的で保管-などの行為を一律で禁じている。
都道府県の条例はおおむね「6月~1年の懲役または50万~100万円の罰金」なのに対し、処罰法では撮影した場合は「3年以下の拘禁刑(従来の懲役と禁錮を一本化した刑罰)または300万円以下の罰金または両方」、不特定多数に画像・映像を提供した場合は「5年以下の拘禁刑または500万円以下の罰金」と、罰則も重くなっている。
警察庁によると、条例違反による盗撮の摘発は令和元年には3953件だったが、5年は5730件に増加。同年は7~12月に処罰法違反での摘発も1203件あった。
さらに犯罪統計によれば、処罰法での摘発は今年1~11月で6143件と急増。ある警察幹部は、「処罰法で摘発しやすくなり、体感として2割ほど事件化できる例が増えたと思う」と話す。まだ集計は未公表だが、条例違反での摘発も並行して行われており、昨年を上回る勢いとなっている。
「隠語」も横行
一方で、「事件化された盗撮は氷山の一角だ」と指摘するのは、一般社団法人全国盗撮犯罪防止ネットワークの平松直哉代表理事だ。同性による犯行や、学校や職場が現場となる例もあり、「被害に気づかない被害者も多い」という。
被害増加の背景として平松氏が挙げるのが、スマホカメラの性能向上や小型カメラの流通だ。一見するとカメラとは分からない商品や、外装がないカメラのみの商品もあり、ネット上で数千円程度で購入可能。日常生活で使うさまざまな物に仕込めるほど、小さいものが出回っている。
盗撮された動画や画像を、交流サイト(SNS)などで販売・公開する行為も横行している。
《スカートの中撮りました》といった投稿に加え、盗撮を意味する「鳥」、高校生の「k」などの隠語も横行。1枚数百円程度で販売したり、新たな画像や動画の撮影を要求したりするアカウントも目立つ。
盗撮方法を伝授するようなホームページが存在し、コミュニティーが形成されて画像の交換や、カメラの取り付け方などの「技術指導」も行われている。
平松氏は「ネットに公開されれば、回収はほぼ不可能。被害は深刻化している」と指摘。「処罰法の施行で厳罰化され、摘発もしやすくなったが抑止力にはなっていない。常習者に対する治療やGPS(衛星利用測位システム)装着など、再犯を防ぐ仕組みが必要だ」と強調している。(梶原龍)