長崎市の端島炭坑(通称・軍艦島)を扱ったNHK番組「緑なき島」が韓国で戦時徴用に関する虚偽情報が拡散する契機となったとされる問題で、NHKの稲葉延雄会長は12日の記者会見で元島民に面会して謝罪する考えを表明した。「申し訳なかったという気持ちを持っている」と述べた。元島民らは坑内とされる映像について4年以上「軍艦島ではない」と指摘し、謝罪と訂正を求めたがNHKは応じてこなかった。
「できるだけ早く対応」
会見で稲葉氏は「元島民の方々に長い期間、大変つらい思いをさせ、名誉を傷つけられることが続いたことに対し、申し訳なかったという気持ちを持っている」と語った。
面会の時期については「相手方の都合も探ってできるだけ早く対応できればいいと思っている」と述べた。
「緑なき島」は、昭和30年にNHKが制作・放送した短編映像。裸電球がつるされた狭い坑道の中でふんどし姿の作業員が人力で石炭を運搬する姿などを映しているが、当時の保安規定や元島民の証言と食い違っている。
映像はNHKが平成22年に韓国の公共放送KBSに提供して以降、他の韓国メディアも含めて無断で使用され、朝鮮人労働者が軍艦島で戦時中に劣悪な環境下で働かされていたという印象作りに利用されている。
稲葉氏は韓国メディアによる映像の悪用について「今後はその都度、不適切な利用はよろしくないと伝えていきたい」と述べた。
「NHKの力も借りたい」
この問題を巡ってNHKの歴代会長が元島民と直接会って謝罪した例はない。昨年12月に東京簡裁で成立した調停でも元島民が求める謝罪には応じず「強い遺憾の意」の表明にとどめた。
端島炭坑を運営した三菱石炭鉱業高島鉱業所の田中実夫元副所長(90)は、稲葉氏の対応について「希望が湧いてくる。会って話をすれば、わだかまりも消えると思う」と語った。
その上で「最終的には端島の過去の姿が正しく伝わってほしい。NHKの力を借りて、外国に出回っているプロパガンダ(政治宣伝)が打ち消されれば一番いい」と語った。
稲葉氏は1月30日、自民党の総務部会など合同会議で元島民側に謝罪を検討したい考えを伝えていた。
稲葉氏は会見で「率直な気持ちを元島民の方々に直接伝えることができないかを考えていた。ずっと悩んでいたが、会長会見なので、検討するということではなく、私の気持ちをはっきり申し上げた方がいいと思って申し上げた」と語った。(奥原慎平)