大阪・関西万博の会場となる人工島・夢洲(ゆめしま)(大阪市此花区)は四方を大阪湾に囲まれ、海が警備の主戦場となる。万博開幕まであと2カ月に迫る中、日本の海をプロフェッショナルとして守る海上保安庁は、夢洲周辺での海上パトロールを公開した。巡視船に乗って同行すると、広がる大海原を相手にテロなどを警戒する厳しさが実感できた。
「面舵(おもかじ)いっぱい」「ヨーソロー(そのまま進め)」。寒波の到来で大阪湾に雪がちらつく6日、大阪海上保安監部所属の巡視船「かつらぎ」(全長35メートル、重さ113トン)が大阪港を出た。時速約15ノット(約30キロ)で進むが、北東からの季節風の影響で波は高い。
船は最大15度ほども傾き、報道陣は慌てて手すりにつかまるが、海上保安官は涼しい表情のまま。海保の担当者は「ここまで波が荒いのは珍しい」と話すが、パトロールは悪天候でも毎日続けており、海を守る保安官に頼もしさを感じた。
積み上がるコンテナの山を横目に、夢洲と北側の舞洲(まいしま)をつなぐ夢舞大橋をくぐり抜ける。夢洲へは鉄道や道路の陸路が整備されているが、旅客船やフェリーを利用した海路も存在する。万博の来場者の一部も海路利用が見込まれ、海保にとっては航路の安全確保も重要な役割となる。
いよいよ万博会場の木製の大屋根(リング)やアニメ「機動戦士ガンダム」の実物大ガンダム像が見えてきた。周囲ではトラックやクレーンが慌ただしく動き、パビリオンの建設が急ピッチで進む。だが、島と反対側には大海原が広がり、日が沈めば海上は漆黒に包まれる。海保幹部は「(テロ犯は)桟橋だけでなく、陸地であればどこでも船を接岸する。島全体の見回りは欠かせない」と強調する。
開幕前のパトロールは大阪海上保安監部が単体で実施するが、半年間の会期中は所属する第5管区海上保安本部が総力を挙げて24時間態勢で実施。レーダーなどの機器も駆使しながら周辺海上を巡回し、要人の来場に合わせて警戒レベルもアップさせる。ただ、機器に依存し過ぎるのは禁物で、「いつもと違うところがないか、常に目を配ることが大切」(海保幹部)という。
海保が想定するのはテロだけではなく、災害もある。会期中に南海トラフ巨大地震が発生した場合、多くの来場者でにぎわう会場に津波が押し寄せる可能性もある。平成23年の東日本大震災では海保の庁舎も被災し、機能を一時移転せざるを得なかったといい、こうした経験を基に対策もシミュレーションする。
出港から約1時間10分で13カイリほど(約24キロ)を航海して大阪港に戻った。やや船酔い気味となった記者の隣では、海上保安官らが相変わらず平然とした表情で下船していった。
日本の領海や広大な排他的経済水域(EEZ)を守る海保の役割は極めて重要だ。その中で万博周辺の海上警備を担う大阪海上保安監部の宮本勝通監部長は強調した。
「世界中から要人が集まる万博で、海からのテロは絶対に許さない」
(鈴木文也)