ドラマ「地面師たち」の原作者で小説家の新庄耕さん(41)が産経新聞のインタビューに応じ、大ヒットとなった作品執筆の背景を語った。巧妙な手口に多くの人が魅了された一方で、若者らが特殊詐欺などに安易に加担している現状に「効率重視の考え方は危うい」と警鐘を鳴らす。
「こんなに大手の企業でもだまされてしまうものかと驚き、小説の題材になると直感した」
大手ハウスメーカーがだまされ、約55億円という巨額のカネが闇に消えた平成29年の事件に着想を得て、地面師という〝玄人〟向けの題材を選んだ理由について、新庄さんはこう語る。「編集者から執筆の提案を受け、即答で決めた。物語の構成や主人公の感じもすぐに決まった」
発案から小説執筆、ドラマととんとん拍子に進み、大ヒットを飛ばした。「知能犯を扱う『(捜査)2課』事件の中でも、書類偽造や交渉の駆け引き、だましのテクニックなど、鮮やかな手口が人をひきつけるのでは」と推察する。
「甘い話はない」
しかし、ヒットの裏で「地面師になりたい、かっこいい」という反応が目につくように。新庄さんは「確かにそう描いた私の責任もある」としつつ「特に若い世代に、楽して金もうけたいという風潮があるのではないか」とみる。
昨今は「高収入」などの言葉に踊らされ、「闇バイト」として強盗や特殊詐欺に加担してしまう若者らが逮捕される事件が相次ぐ。コスパ(コストパフォーマンス)、タイパ(タイムパフォーマンス)という言葉に象徴されるように「効率重視の考え方の隙間に詐欺が入り込む」と強調する。
被害減少を「評価」
一方、闇バイトによる犯罪が横行する一方で、地面師は姿を消した。
身分証にICチップが搭載されるなどの偽造防止技術の向上で、従来の手口が通用しにくくなってきたほか、かつて暗躍した地面師たちが軒並み逮捕、服役していることが理由とみられる。
11月にはフィリピンから帰国した地面師の男が警視庁捜査2課に新たに逮捕された。新庄さんは地面師の減少傾向について「とてもいいことだ」と評価。ただ、自身の取材から、「地面師まがいのあやしい行為は今も少なくないようだ」とも分析している。
「土地がからむような詐欺事件では被害が高額になりがち。だまされる側はとても大変な思いをする」とし、被害者の立場をおもんぱかる。
自身も詐欺被害経験
新庄さんの思いの背景には、自身も詐欺被害に遭った苦い経験がある。
今年、ネットショッピングのため海外サイトを見ていたところ、スマートフォンの警告音が鳴り響いた。その後偶然、口座を持つ銀行をかたるショートメッセージを受信したことから、疑うことなくパスワードを入力してしまったという。
後日、届いた明細で60万円以上を勝手に振り込まれたことが発覚する。「分かってはいても、パニックになると冷静な判断ができないことを痛感した」と振り返る。
小説やドラマ「地面師たち」のヒットについて、警察当局では「犯罪抑止効果も高かった」と評価の声も上がっている。新庄さんは「今後はいろいろなジャンルの犯罪を扱い、普段小説を読まない層の方にも楽しめるような臨場感あふれる作品を作っていく」と話した。(外崎晃彦)
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しんじょう・こう 昭和58年、東京都生まれ。平成24年、第36回すばる文学賞を受賞した「狭小邸宅」でデビュー。令和6年、小説「地面師たち」がNetflixでドラマ化され、話題となる。続編「地面師たち ファイナル・ベッツ」と、前日譚を描く「地面師たち アノニマス」を刊行。そのほかに「ニューカルマ」「カトク 過重労働撲滅特別対策班」など。