複数の看護師らが入院患者に暴行していたことが発覚、関係者が立件された東京都八王子市の精神科病院「滝山病院」の名称が今月、「希望の丘八王子病院」に改められた。法人名も創業者の字を取ったとみられる「孝山会」から「新山会」に変わった。同族経営が続いていた同病院からは理事長と院長が現場を去り、新たな理事長兼院長が親族以外から就任。事件を踏まえて策定した改善計画を元に再生を期すが、退院を希望する患者を支援する市民団体からは「実態は変わらないのではないか」という厳しい声も出ている。
「昔から有名」
最寄り駅からタクシーでおよそ15分。急坂を上った高台に、旧滝山病院はある。地元出身のタクシー運転手は「昔からあるこのあたりでは有名な病院」と話し、続けて「でも、あんなことがあったなんて知らなかった」と付け加えた。
同病院では、入院患者の頭を殴ったとして昨年2月、暴行容疑で看護師の50代男が逮捕されたのを皮切りとして、同様の行為に手を染めていた職員の摘発が相次いだ。最終的に逮捕、書類送検された職員は計5人。捜査の端緒は内部告発だった。
都から業務改善命令を受け、病院側は昨年5月に計画書を提出。閉鎖的な職場環境が事件の背景にあったなどとして、外部の第三者を交えた虐待防止委員会の設置やマニュアルの作成、再発防止のため、患者や家族の承諾を得た上で院内にカメラ計50台を設置するなどの具体策が盛り込まれた。
個人経営そのもの
今年8月末には管理責任を問われた旧経営陣が辞任し、翌月に新たな理事長兼院長が就任。今月1日には病院名や法人名を改称した。第三者委の報告書は「創業者の個人病院時代にはワンマン経営とも称される病院運営が行われていた。法人化されてもその体質は継続し、実態は個人病院そのものだった」などと指摘。「個人病院時代に、患者への虐待防止などに向けた先駆的な取り組みがなされた形跡は全くない。法人化を機に、これを自省した事実はほとんどない」などとも言及しており、同族経営からの脱却が再生への大きな課題となっていた。
ただ道は険しい。事件発覚後の昨年5月に都が行った調査では、当時の入院患者70人のうち、39人が転院や退院を希望していたことが明らかになっている。
転院、退院希望も
同病院が抱える問題の根深さをうかがわせる結果は、ある団体の設立にもつながる。市民団体「滝山病院にアクセスする会」は、同病院から転院、退院を希望する患者の支援を主な目的として昨年9月に結成された。
同会共同代表で精神保健福祉士の細江昌憲氏は「事件は職員個人がやったことにされているが、人を繰り返し傷付けてきた病院が組織として処分を受けないのは、社会正義に反する。けじめとして、一度つぶれるべきだ」と指摘。細江氏らは旧滝山病院に対して生活保護法による指定医療機関の指定を取り消す行政処分を行うよう八王子市に求めて署名を呼びかけ、全国から約5千筆にのぼる賛同が寄せられている。
こうした動きに同病院は産経新聞の取材に対し、「指定医療機関の指定の取り消しを受けるような法令違反はしていないと認識している」とし、同会の活動についても「誠に遺憾」と反論する。その上で、一連の虐待事件を招いたことは「患者さま、ご家族に大変なご迷惑をおかけし、おわび申し上げる」とし、現在は都の指導を受けながら「職員一同、全力で社会的信頼の回復に励んでいる」としている。(宇都木渉)