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完了までわずか2分半 高級車窃盗団の必須ツール「CANインベーダー」、進む分業化

産経ニュース 2024年9月30日 8時0分

トヨタ「アルファード」などの高級車を短時間で盗み、日本車を好む海外に密輸する窃盗グループが暗躍している。手口で目立つのは、車を破損させることなく外から電気信号を発してカギを開けたりエンジンを始動したりする「CAN(キャン)インベーダー」と呼ばれる小さな機器だ。犯人らも指示役、実行役、依頼を差配するブローカーなど分業化が進んでおり、全国警察の重要課題となっている。

まるで小型バッテリー

スマートフォンの充電などに使うモバイルバッテリーのような形状をしたCANインベーダー。縦約10センチ、横約8センチほどで、持ち運びもたやすい。

「CAN」は車の電子制御システムに使われている通信手順を指し、電気信号を発してこの通信手順を攪乱(かくらん)させ、キーがなくても車を動かせる。本来は、ドライバーがカギを車内に残したままロックしてしまう「閉じ込み」に対応する際に使われるものという。

捜査関係者によると、CANインベーダーを使った車両盗難の具体的な手口はこうだ。

車のフロントバンパーを開け、配線が集まる部品を取り出す。部品の特定部分2カ所に、インベーダーに接続した端子を挿し、起動。ランプが赤から緑色に変われば車の「乗っ取り」は完了。「短ければ2分半でできる」(捜査関係者)。

CANインベーダーの機器一式は、海外のインターネットサイトで、日本円にして80万円ほどで購入できるという。

ヤードから「発注」

自動車窃盗自体は昔からある犯罪だが、近年は分業化、計画性が強まっており、〝ビジネス〟の様相を呈している。

事件の発端となることが多いのが、盗難車を加工・保管し、密輸出するのに使われる「ヤード」と呼ばれる作業場からの発注だ。

ヤードを仕切る業者が、窃盗団とつながりのあるブローカーへ「この車がほしい」と依頼する。ある捜査関係者は「人気なのはトヨタ車。最近は『××という車のこれがほしい』などと、型式まで指定している」と打ち明ける。

ブローカーは窃盗団の指示役へ相談し、指示役は実行役や盗難車の運搬役などを使いながら、犯行に及ぶ。実行役はCANインベーダーなどを駆使して車を盗むと、離れた場所のコインパーキングなどに盗んだ車を駐車。運搬役が回収し、車をヤードへ持ち込む。

複雑な分業化からは、捜査を攪乱する狙いも透ける。捜査幹部は「盗むところをはっきり防犯カメラで押さえられていなければ、犯罪としての立証が難しい。盗むところからヤードへ持ち込むところまで(同じ犯人が)全部やっていれば、計画性が明白なのだが…」と唇をかむ。

どうすれば被害を防げるのか。捜査幹部は「CANインベーダーをつなぐ部品は車に数カ所あるが、車外からアクセスしやすいのは助手席側のものだけ」として、助手席側のスペースを駐車場の壁などに詰め、駐車することを推奨。

近年はCANインベーダーによる侵入を防ぐ防犯システムも普及しつつあるほか、「ハンドルロックを付けるなど、目に見える対策で『盗みにくい』と思わせることも大事だ」と話している。(内田優作)

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