事件現場に残されたわずかな指紋から容疑者を捜査線上に浮上させる指紋鑑識。事件捜査の「要」となる鑑識作業には豊富な経験と知識が求められる。大阪府警鑑識課では若手の指導にも力を入れており、ベテランから技術を受け継いだ指紋照会係員、才田美里さん(28)ら女性職員が〝若手のホープ〟として活躍している。
鑑識課の鑑定指導室で、才田さんが真剣な表情で拡大鏡に写る指紋をのぞく。凶器はもちろん現場のドアノブや窓枠など、犯人が触れたと予想されるあらゆる箇所を鑑定し、検出された遺留指紋が容疑者のものと一致するかを見極めていく。
指紋には「隆線」と呼ばれる表皮の隆起した線があり、個人特有で年を重ねても変化しないことから「万人不同・終生不変」と言われる。一つの指紋には約100カ所以上の特徴点があり、そのうちの複数点が一致すれば同一と判断されるという。
「特異点の一致箇所を照合するのは本当に時間がかかるが、人の目で一つずつ特徴を見ていくしかない。ミスは誤認逮捕にもつながりかねず、責任重大な仕事です」と才田さん。ベテラン鑑定官は「『根気強く諦めない姿勢』が武器の優秀な係員」と信頼を寄せる。
ベテランとペアで育成
大阪市内で昨年3月、男性が何者かに首を刺される殺人未遂事件が起きた。犯人は現場から逃亡したが、周辺から凶器とみられる刃物が見つかった。才田さんが刃物を調べたところ、指紋の大半を覆うように被害者の返り血が付着していた。「血痕つきの刃物は凶器の可能性が極めて高い。何としても指紋を一致させたい」と気を引き締めた。
血液の混じった指紋の採取は、通常の方法では鑑定するのがが極めて困難という。カメラで至近距離から指紋を接写し、目視で隆線の一致箇所を1つずつ探す方法を選んだ。根気強く作業を続けた結果、容疑者として浮上していた外国籍の男の指紋と一致。発生翌日のスピード摘発に至った。
府警幹部によると、日本の指紋鑑識技術は世界トップクラスと言われる。今後の犯罪捜査ではより一層の技術向上が求められており、鑑識課ではベテラン鑑定官と若手をペアにした育成に力を入れている。
最前線と同じ気持ち
鑑識課では女性係員の採用を積極的に進めており、この中でも最年少が指紋照会係の武田小雪さん(19)だ。事件現場から採取された遺留指紋を犯罪歴がある人物が登録されたデータベースと照合する「システム班」に従事している。
遺留指紋には隆線の模様が一部消えているほか、不鮮明なものも多いが、1日に「指500本以上」のデータとの照合を行っている。「自分が照合した指紋のデータが正確なほど早く犯人を浮上させられる。事件現場に行くわけではないが、最前線にいるのと同じ気持ち」と話す。
警察の仕事に憧れ、警察官を事務面などで支える警察行政職員として奉職した2人。「府民の安心安全な生活を守るため、少しでも多くの事件に関わっていきたい」と意気込んでいる。
事件の「最前線」に立つ女性増加
大阪府警鑑識課に所属する女性は、警察官と警察行政職員を合わせた課員の4割ほどを占める。鑑識課を含む府警刑事部全体では、逮捕などの権限を持つ警察官に限ると約18%だが、事件現場の最前線に立つ女性は年々増加している。
府警によると、女性警察官の採用拡大へ本格的に踏み切ったのは平成23年。当時8%程度だった女性警察官の比率は、令和6年には約12%まで上昇した。近年は性犯罪が多発しており、被害女性に寄り添って話が聞ける女性の役割は、一層重視されるようになっている。
府警幹部は「ひと昔前と比べ、女性警察官の活躍の場が広がった。今後も働きやすい環境づくりに取り組み、採用拡大につなげたい」と話した。(鈴木源也)