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0・2%の〝超少数派〟保護司が担う被害者支援 日曜に書く 論説委員・長戸雅子

産経ニュース 2025年2月2日 15時0分

全国に約4万7000人いるうちの99人だから、その割合は0・2%。数だけ見れば、圧倒的な少数派である。

保護司といえば、刑務所や少年院から出所した加害者の更生を助ける民間ボランティア、とだれもが思う。それは間違っていない。しかし、保護司の中には加害者ではなく、被害者支援に専念する保護司(被害者担当保護司)もいる。それがこの99人だ。

制度が設けられたのは平成19年。被害者担当保護司は、全国に50ある保護観察所を拠点とし、法務省職員である被害者担当官と協力して活動している。一般的な相談にのるほか、被害者の心情を保護観察中の加害者らに伝える「心情等聴取・伝達制度」などで利用者への助言やサポートを行う。

加害者と被害者の違い 時の流れの有無

「10年間保護司をやっていて、被害者への謝罪の気持ちを持たない人が相当数いることに気づいた。被害者の気持ちを学び、加害者に理解させたいと思った」

「被害者が取り残されていると思った。違う方向から保護司の職務をみたいと考えた」

昨年12月、法務省に4人の被害者担当保護司・経験者が集まった。通常の保護司から、希望して被害者担当保護司となった理由を女性のAさんと男性のBさんはこう話した。

被害内容の特定を避けるため紙面には匿名で登場いただく。

加害者と被害者の双方に寄り添って気づいた決定的な違い。それは「時の流れ」の有無だ。加害者には刑務所や少年院の出所という「区切り」があり、時計の針は先へ進む。

一方、被害者の「時」は、事件直後のまま止まっていることがほとんどだ。「お子さんを亡くされた方が、今も生きているように現在形で話す姿に胸が詰まった」(Cさん、女性)

被害者に接するとき、Dさん(女性)は「言葉をそのまま受け止め、ジャッジせず聞く」ことを心掛けている。一方で「胸の底にたまった思いを引き出す問い掛けも大切」という。

詐欺被害者を救済

日本では「新全国犯罪被害者の会(新あすの会)」の活動により、被害者の裁判参加など数々の制度や支援が定着した。

それでも支援につながりにくい犯罪被害は残る。特殊詐欺事件などの経済犯罪だ。これらは被害者参加制度の対象ではなく、生命・身体が傷つけられる犯罪に比べ、支援も限定される。そして、詐欺の被害なら「心の傷」は軽いはず、と多くの人が思っている。

しかし、ある被害者はこう証言する。「詐欺の被害者は家族から責められ、いやというほど自分自身を責めている」(令和3年版犯罪白書)。自責の念や失望から自殺してしまう人も少なくないという。

家族にも友人にも相談できなかった人が、被害者担当保護司の協力で前へ進むことができたケースもある。

担当保護司が地域の人だったことで心を開いた被害者は、恨む思いのほか、知人でもあった加害者の状況を案ずる気持ちも話した。心情等伝達制度の利用を勧められ、気持ちを余すところなく伝えた。怒りや悲しさの中にそっと存在した優しさが加害者の心を動かし、被害金の一部返還が実現した。

被害者はこう続ける。「『あなたは悪くない。悪いのは加害者ですよ』と言ってもらうだけで救われる」(同白書)

法務省の担当者は「『あなたは悪くない』という同じ言葉でも、人生経験を積んだ地域の人(被害者担当保護司)から言われると、より響くようです」と語る。民の力がここにもある。

「きょうは勇気をもってこちらに参りました」

昨年夏に都内で行われた、新あすの会のシンポジウムで、こうあいさつした男性がいた。

全身を耳にして

世田谷区保護司会の会長を務める鈴木康司さん(73)。保護司は「加害者の味方」と思われる存在だ。緊張していた。

これより先に、新あすの会代表幹事の岡村勲弁護士の講演を聞いていた鈴木さんは、保護司会として、被害者にも寄り添う活動を始めたいと考えた。まずは同じ地域の人間として話を聞き、必要な支援につなげる-ことを計画している。

岡村さんはこう歓迎する。「保護司は人の話を聞くプロです。被害者に対しても全身を耳にして聞いてやってください」

0・2%で収めてはならない動きが始まっている。(長戸雅子)

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