元日の能登半島地震で甚大な被害が出た石川県珠洲市に3Dプリンターで造った2人世帯向けの住宅第1号が完成し、被災者対象の無料宿泊体験が行われている。本体価格550万円(税別)で、着工から約20日間で完成した建物は「安くて速い」住宅再建として注目されており、発注した地元の設備工事会社「三百苅(さんびゃくがり)管工」の三百苅卓明社長(62)は「高齢世帯にとって住宅再建のハードルは高い。一つの選択肢として提示できれば」と話している。
住宅は兵庫県西宮市のスタートアップ(新興企業)セレンディクスが製造・販売。水回りを完備した50平方メートルの1LDKで、海に面して建つ珠洲市上戸町南方のホテル「notonowa(のとのわ)」の敷地内に一棟貸しの客室として建設された。
三百苅さんは当初、セ社が販売する10平方メートルタイプの建物をグランピング用として発注していたが、能登半島地震の発生で「被災した人が生活再建のイメージを持てるようにしたい」と、2人世帯が居住可能な50平方メートルの建物に変更を依頼。セ社も長野県内で予定していた販売1棟目の建築を延期させ、能登での建設を優先した。
建築基準法に適合した「壁式鉄筋コンクリート造」で、基礎部分にも初めて3Dプリンターの部材を使用。軟弱地盤だったこともあって地盤・基礎工事に計約450万円かかり、内装や電気・設備工事費なども含む総額は約1500万円だったが、「通常工法に比べればずっと安い」と三百苅さん。今後はセ社と使用感などの検証を重ね、災害に強い新しい住宅が提案できるように取り組む計画という。
「のとのわ」は今年7月、廃業したモーテルをリノベーションしてオープンした、震災後に奥能登で初めて開業したホテルだ。支配人の畠山陸さん(27)は東京や海外で宿泊業に携わってきたが、豊かな里山・里海にひかれて昨夏に移住。モーテル所有者の三百苅さんと出会い、今年2月のホテルオープンを目指して改築を進めていた中で地震が起きた。
それでも諦めなかったのは、「人とのつながり」だという。「お世話になっている人も、文化もなくなってしまったら悲しい」と支援団体を立ち上げてボランティアの受け入れや炊き出しなどにも奔走した。9月の豪雨被害でそうした活動も難しくなったが、「できることをやっていきたい」と前を向く。
「みなし仮設住宅」の入居期間は、自宅が半壊以上の被害を受けた場合は原則2年間だ。奥能登は高齢化率が高く、資材価格の高騰などで住宅建設費の上振れ傾向が続く中、経済面から住宅再建が難しい被災者は少なくない。三百苅さんによると、3Dプリンター住宅の宿泊体験者のアンケートはおおむね好評だといい、「能登での暮らしを諦めなくて良い選択肢を提示できれば」と話す。
年内は毎週日曜日の正午~午後3時まで、無料内覧会を実施。今月11日から曜日限定で一般の宿泊予約も受け付けている。問い合わせは「のとのわ」(0120・111・872)。(木村さやか)