今年元日の能登半島地震で全壊した住宅を、被災者自身とボランティアが「共助」で再建するプロジェクトが進んでいる。川崎市内の建築系スタートアップ(新興企業)が開発した、素人でも家を建てられるサービスを実践するもので、実家が被災したデザイナーの女性が同社に勤めていたことが縁。住宅復興の新しい形として注目される。
部材キットを組み立て
4日午後、石川県羽咋(はくい)市の中心部。男女12人ほどが平屋の家を建築中だった。施工管理の工務店がコーチ役となって、外壁に断熱材キットを入れ、気密フィルムを貼っていく。10月初旬から休日を使い、3カ月かけて年内の完成を目指す。
この場所には今年の元日まで、漆黒の「能登瓦」を使った築60年の家が建っていた。川崎市の建築系新興企業「VUILD(ヴィルド)」で空間デザイナーをしている沼田汐里さん(30)は実家に帰省していて被災した。家は全壊判定を受け、5月に解体された。
「解体したとき、じいちゃんの名前と建てた棟梁の名前が書かれた棟木が出てきました」
実家には祖母と両親が暮らしていた。住宅の再建をどうするか。沼田さんの勤め先は昨年から、アプリを使って住宅を自ら設計し、部材をキット化して素人でも家を組み立てられる「ネスティング」というサービスを始めていた。すでに香川、栃木両県で2軒が完成し、全国で数軒が建築中という。
このサービスを使って、被災地に仮設住宅ではない、ずっと住める復興住宅を建てられないか―。実践第1号に「沼田邸」が選ばれた。
職人不足を「自助」で
石川県によると、地震により公費解体された家屋は9月末時点で約5千棟で、解体が見込まれる約3万2千棟の約16%にとどまる。すべての解体が終わるのは地震から1年10カ月後の来年10月の見込みだ。さらに、解体が終わっても大工職人や資材の不足により、住宅再建まで長期間待たねばならない場合もある。
こうした職人不足は全国的な傾向で、国勢調査によると全国の大工職人は平成12(2000)年の65万人から令和2(2020)年は30万人と、20年間で半減。都市部の工務店主は「注文住宅の顧客に伝える工期は、従来よりも1~2カ月長くなっている」と話す。
ヴィルド代表の若手建築家、秋吉浩気さん(35)は「デジタルテクノロジーと全国の加工ネットワークを活用してキット化された住宅を、自分たちで建てることで、職人不足などさまざまな社会課題の解決への糸口になりたい」と話す。
自分たちで建てるとはいえ、素人では難しい建築確認を受けるための構造計算など設計や監理は同社が担当し、台所や風呂場などの水回りの工事や電気工事は専門の業者に依頼する。現場の施工管理も地元の工務店などに依頼することになる。
また、2階建てだと重機を使わなければ建てられないため、現在は平屋に限っているという。
ボランティアと「共助」
それでも、従来は建て売りか工務店に依頼する注文住宅しかなかった「家を建てる」という営みに、自助で建てる「セルフビルド」から共助で建てる「コビルド」まで、また災害時だけでなく平時の家づくりに、さまざまな選択肢が加わることになる。
沼田家の建築作業を支えるのは、親族一同のほか、インターネットで全国に呼びかけたボランティアだ。
沼田さんは「ボランティアの方々は、一度やると楽しくてまたやりたいと言ってくれる。実家の再建がモデルとなって、少しでも災害からの復興に役立てるような発信をしたい」と話す。
沼田家の再建は来週、外壁周りに加えて天井や床の仕上げに進むといい、12月末の完成まで、ボランティアを募集している。