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紀伊半島豪雨13年「もう一人も犠牲出さぬ」 奈良・十津川村、災害の「司令塔」新設

産経ニュース 2024年9月4日 18時44分

和歌山、奈良、三重3県で73人が死亡、15人が行方不明になった平成23年9月の紀伊半島豪雨から4日で13年となった。10人以上の死者・不明者を出した奈良県十津川村では、豪雨の教訓をもとに昨年、防災対策課を新設し、災害対策用の新庁舎も完成させた。「もう一人も犠牲者を出さない」。人口約2800人の村は、災害の「司令塔」を得て備えの徹底を図る。

台風10号が紀伊半島に接近した8月31日。災害対策用庁舎では、防災対策課の職員らが情報収集に奔走していた。幸い人命や住宅に被害はなく、大規模な土砂崩れもなかった。「警戒体制を強めていたが、ほっとしている」。西岡宏樹課長は胸をなで下ろした。

紀伊半島の内陸部に位置し、村としては日本一の面積(約672平方キロメートル)を持つ十津川村。東京23区とほぼ同じ広さという村内は険しい地形が多く、集落が孤立しやすい傾向にある。13年前の豪雨では、相次ぐ土砂崩れで多数の犠牲者が出た上、各地の道路も寸断。孤立した多くの村民が不安な日々を過ごした。

豪雨の後、地区ごとに衛星携帯電話を配備するなどの対策も取ったが、近い将来発生が懸念される南海トラフ巨大地震でも土砂崩れが起きる恐れがある。村役場は小所帯だが、備えを強化すべく昨年4月、総務課内にあった防災グループを増員し、3人態勢の防災対策課として独立させた。

災害時は正確な情報を住民に迅速に伝え、避難につなげることが重要だ。「危機が迫っていることをより切実に伝えられたら、多くの人が率先して避難してくれるはず」。13年前も防災行政無線の放送を担当した同課職員の千葉幸(ゆき)さん(45)はこう話す。

「橋が落下した」「土砂ダムが越流する恐れ」-。13年前は、信じられない情報が次々に入った。住民に切迫感を伝えるのに苦労し、千葉さんの親族も命を落とした。「もう一人も被害に遭わないようにしたい」と千葉さんは力を込める。

昨年12月には、本庁舎の横に木造地上2階建ての災害対策用庁舎が完成した。1階に診療所、2階に防災対策課の執務室と対策本部用のスペースを設け、村民の命を守る体制を確保した。また、実際の災害を想定した対策本部運営訓練を実施するなどし、次の災害へ着々と備えを進める。

西岡課長は「まだまだ手探りだが、ハードだけでなく、ソフト面の防災意識向上も図りたい」と話した。

防災対策や啓発、被災各地で強化

紀伊半島豪雨を教訓に、被災自治体は防災の啓発や対策の強化を進めている。災害から13年が経過し、若い世代への継承も重要なテーマとなってきている。

和歌山県は平成28年、土砂災害について学ぶ「県土砂災害啓発センター」を同県那智勝浦町に開設。土砂災害のメカニズムや対策を説明するジオラマやパネル展示、豪雨被災者の実体験をもとにした紙芝居や当時の映像などを用意し、小中学生の校外学習などに活用している。

奈良県は今年5月から、地図をクリックするだけで浸水被害リスクを把握できる「災害リスク情報システム」を公開。従来は河川ごとにPDFファイルを開いて確認する必要があったが、任意の地点を選ぶだけで瞬時に浸水深をミリ単位で表示できるようになり、「地域防災に生かしてほしい」と呼びかける。

三重県では令和3年、桑名市やいなべ市など4市町が、洪水時の広域避難に必要な対応を洗い出し、行動項目として整理する「タイムライン」を策定。台風など災害時に備え、バス輸送の手配や一時滞在施設開設などの必要性を検証した。

和歌山県土砂災害啓発センターの稲田健二所長は「紀伊半島豪雨で起きた土石流や土砂崩れといった被害は、この地域で過去に何度も起きているが、多くの人の記憶に残っていなかった」とし、災害の記憶を後世に伝える重要性を指摘。近年は全国で災害が相次ぎ、防災対策が進んでいるとしながらも「課題は災害を自分のことと受け止めてもらうこと。防災学習などで災害をより身近に考えてほしい」と話した。(秋山紀浩)

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