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まちのデメリット減らし、人々を幸せに 都市防災研究者・廣井悠東大教授 TOKYOまち・ひと物語

産経ニュース 2024年11月18日 21時2分

都市防災を研究する東京大教授の廣井(ひろい)悠さん(46)。今年の能登半島地震をはじめとする自然災害の被災地調査・研究のほか、今後懸念される首都直下地震対策など、国や自治体の専門家会議でも活躍している。都内出身・在住で、公私ともに東京のまちと深くかかわる。研究を通じて、東京ならではの魅力を守りながら安全・安心に貢献し、人々を幸せにしたいと話す。

人が集まる魅力

幼いころから文京区・本郷で育った。一時、名古屋に拠点を移したが、現在は再び東京に戻り、また本郷周辺に暮らしている。文京区には親しみを感じていて、「文化・スポーツ活動にいそしみ、元気な人が多い。緑も多く、いいところです」と語る。

追究するテーマは「安全・安心な都市をどう作るか」。東京をはじめとした大都市には人間、知識、富などが集中する。ある学者は、都市を「人類最高の発明」と評したという。人類の一番の特徴ともいえる「学び」を、互いに近い距離で行い、拡大できるからだ。

しかし、「集積」はメリットとともにデメリットも生じさせる。その代表例が災害だ。例えば火災の場合、延焼・飛び火で、周囲により甚大な被害をもたらす。

集まることのメリットを生かしつつ、災害におけるデメリットを減らすにはどうすればよいか。どうしたら人命を守り、被災者を減らせるか。それを工学的に突き詰めていくのが廣井さんの研究テーマだ。

東京では首都直下地震だけでなく、関東大震災などを起こした相模トラフでの巨大地震をも見据え、まちづくりなどで「50年先、100年先といった長期的観点での対策を強化していくことも大切」という。

数学から防災へ

廣井さんが都市防災について興味を持ったきっかけは、大学の卒業論文だった。応用数学を専攻していて、卒論のテーマを選ぼうと図書館にこもっていたとき、たまたま建築防火の資料を手に取った。それを読み、都市火災の進行について数学モデルで簡便に模擬計算できる仕組みを作ろうと考えた。

研究を進め、論文をまとめる段になって、内容が数式の改良ばかりなことに葛藤が生じた。むしろ、どうしたら災害の被害を防げるか、どうしたら人の命を救えるかを書きたい。そう思ったことが今のテーマへの入り口だ。

大きなやりがいを感じている。東大教授も務めた父(廣井脩氏)は災害情報、社会心理学の観点から平成3年の雲仙普賢岳噴火災害の検証などで活躍した著名人。子供のころから父は災害調査などで忙しく、あまり家にいなかったため進路選択で影響は感じなかったが、「もしかしたら、(深いところで)影響を受けていたのかも。よく『研究者はいいぞ』と言っていました。自分の信念を曲げることなく突き進むことができると」と振り返る。

研究の合間に探検

探検が好きで、多忙な研究の合間には東京の街歩きやカフェ・喫茶店巡り、ジョギングを楽しむ。「特に純喫茶が好きです。歩いて、喫茶店に入って、また歩いて」

散歩好きには地形鑑賞など地理学的観点で楽しむ人も多いが、自身は工学者らしく「上物(建物などの構造物)を見るのが好き」と話す。「谷根千」エリアのくねくねと曲がった路地「へび道」、防災団地「白鬚東アパート」(墨田区)、また新宿駅周辺の地下街などの入り組んだ構造を見るのが楽しい。

古地図と現在の街並みを比較し、答え合わせをしながら歩くのも気に入っている。「ビル街でも、ちょっと歩くと江戸を感じるところもあり、歴史を勉強すればするほど街歩きが楽しいです」

こうしたことの一つ一つが、単にメガシティーというだけではない東京の魅力を形作っている。これからもまちを愛し、そこに暮らす人々の幸せのために突き進む。(黒田悠希)

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