埼玉県八潮市でトラックが転落した事故の原因となった道路の陥没は、下水中の有機物から発生した硫酸で配管が腐食したことによって引き起こされた可能性がある。近年の気温上昇による微生物の活発化や、この土地特有の軟らかい地盤も影響しているとみられ、専門家は点検技術の見直しの必要性を指摘している。
「汚物を含んだ有機物から発生した硫化水素が空気に触れ、酸化することで硫酸が生じた」。下水道に詳しい日本大生産工学部の森田弘昭教授(土木環境システム)はこう話す。
破損した下水道管は深さ約10メートルの地中に設置されている。発生した硫酸によって、鉄筋とコンクリートでできた下水道管が溶けて小さい穴が開いた。そこに土壌から地下水や土砂が少しずつ侵入し、地表との間にできる空洞が拡大することで陥没を引き起こしたと考えられる。
森田氏によると、地球温暖化も影響を与えている可能性がある。気温の高まりに伴って下水道管内の温度も上昇。有機物の中に生息し、硫酸の発生を助ける微生物の数が増殖するなど「配管内部の環境も絶えず変化している」という。
大規模陥没の一因に、地盤の軟弱さを指摘する声もある。「八潮地域は砂地盤で地下水位も高く、下水道管のわずかな破損部分からでも砂が流れ込みやすい」と語るのは、東京大生産技術研究所の桑野玲子教授(地盤工学)。軟弱な地盤が緩やかに沈下していくことで、地表のアスファルトとの間に大きな空洞ができたとみる。
森田氏も桑野氏も、下水道管の破損を防ぐためには、設備の現状把握を徹底する必要があることを強調する。
桑野氏によると、陥没リスクは地表からのレーダーによる探査などによって、地中に潜む空洞を把握することができる。だが、それは地表からの深さが2メートル程度までが限界で「今回のような10メートル程度の深さにある空洞を把握するのは、今の技術では不可能だ」という。
大規模な陥没リスクの把握には、地面の沈下を高精度に監視するなど「従来とは異なる点検技術を開発することが必要」(桑野氏)となる。
今回の事故を受け、国土交通省は同規模の下水道管がある全国の自治体に緊急点検を指示。「原因を特定した上で、これまでの点検方法が適切かを検証していく」(担当者)としている。(塚脇亮太、重川航太朗)