政府が災害時に避難所で温かい食事を提供するため、各地にキッチン用資機材を配備、運用する方法を検討していることが11日、明らかになった。検討の背景は「100年前と変わらない」(有識者)とされる現在の避難所環境を抜本的に改善するためだ。能登半島地震では避難生活中に亡くなる災害関連死が直接死を上回るなど課題が浮上。被災地では今回のモデルとなる事例もあり、政府は全国で同様の体制を整えたい考えだ。
ドーナツ、ジャムパン、アンパン…。能登地震のある避難所では甘い菓子パンばかり配られ、賞味期限を気にした自治体職員が「もったいないので我慢して食べて」と呼びかける場面も見られたという。内閣府が設置した能登地震の対応を検証する作業部会ではボランティア団体からこうした事例が報告された。
避難所の生活環境を巡っては、避難者が体育館の床に雑魚寝(ざこね)するなど約100年前と大きく変わらない。トイレ不足が課題だが、食事面では炭水化物が多く野菜や肉類が少ないなどの栄養の偏りが見られ、健康への影響が懸念されている。
国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所(大阪府)の国際災害栄養研究室によると、平成23年の東日本大震災の避難所では期限切れ食品を廃棄した事例と、菓子パンが大量に余る事例が確認された。発生1カ月の段階でも栄養バランスに偏りがあることも分かった。
災害が多いとされるイタリアでは、ボランティア団体が発生後1日のうちに食事を提供するよう訓練を受ける。避難所にはキッチンコンテナが設置され、食堂で温かいパスタなどを提供している。
能登地震では石川県穴水町の「穴水モデル」が注目された。臨時調理拠点を設け、委託を受けた地元飲食店組合が町の管理栄養士作成のメニューに沿って調理。調理人や配送ドライバーは休業中の町民を雇い、近隣避難所の計約320人に温かい食事を配送した。
避難所で医療支援活動を行う新潟大特任教授の榛沢(はんざわ)和彦医師は「過去の災害でも避難者が食欲とともに元気をなくす傾向がある。単に栄養の問題ではなく、温かい食事を取る普段の生活に戻していくことが大事」と話した。(市岡豊大)