政府が26日に公表した南海トラフ地震臨時情報への対応調査では、対象地域の市町村の約6割が「戸惑うところもあった」と回答するなど、自治体側の認知度が課題として浮かんだ。臨時情報は日常生活を維持しつつ大規模地震に対応する目的で出されるが、8月当時の対応を振り返ると自治体ごとの温度差が際立つ。統一的な指針を求める意見も上がっており、政府は対応を検討する。
「何に注意警戒すべきか分からなかった」「地域の実情に応じた呼びかけにつながらなかった」
さいたま市内で今月11日に開かれた対策推進地域の関東ブロック会議では、自治体担当者から困惑の声が相次いだ。
災害対応は基本的に市区町村に委ねられる。調査では、震度6弱以上の地震で通常設置される災害対策本部を設置した市町村は約7割だったが、「義務ではない」(内閣府担当者)。11の都府県は政府発表をそのまま伝達し、18は独自の発信をした。一部市町村は避難情報を発表したり、避難所を開設したりした。
内閣府は津波の危険にさらされる沿岸部と海のない内陸部で温度差があると分析する。今回発端となった地震は宮崎県沖の日向灘で、南海トラフ想定震源域の西端。地理的に遠い地域は低調だった可能性もある。
今回、盛夏期の発表で海水浴場やイベントの扱いが注目された。イベントを中止または延期した市町村は37、公営施設の利用制限や休止をしたのは31で、いずれも全体で6%前後だった。
中止した一部自治体は「会場が山頂で地震で孤立する恐れがある」「消防が即応体制を取るため」などと防災上の理由を上げたが、中には「住民感情を考慮した」という回答もあった。
一方、実施した自治体からは「海岸付近の避難路を確認、周知して行った」「帰宅困難者の受け入れを調整して花火大会を開いた」と防災対応を取ったところもあった。本来は地域事情や防災対応の状況に応じた個別判断が求められる。
背景には日常生活を維持しつつ警戒を高める制度特有の難しさがある。調査では自治体から「(想定)震度が小さい場合にも対応を求めるのは過剰ではないか」という意見も上がる。
「住民や企業が取るべき対応を統一的に示してほしい」。こうした要望に対し、南海トラフ地震対策を検討する政府作業部会は一定の考え方を示すことも検討するが、ある委員は「細か過ぎると自主判断の余地を狭める。難しいバランスが必要」との見方を示す。(市岡豊大)