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命の重み伝え続ける 紀伊半島豪雨13年、奈良・五條市で慰霊祭

産経ニュース 2024年9月4日 21時7分

平成23年の紀伊半島豪雨から13年となり、8人が死亡、3人が行方不明となった奈良県五條市大塔町宇井地区で4日に行われた慰霊祭。参列した遺族や住民、市職員らは当時目の当たりにした光景に胸を痛めながら犠牲者の冥福(めいふく)を祈るとともに命の重みをかみしめた。「当時は夢にも思わなかった災害。こうしたことが起こりうることを伝えていきたい」。直前には各地で台風10号による被害も相次いだ中、そんな思いを強めた。

「復興工事は進んでいるので、前を向いて歩んでいきたい」。慰霊祭で進行役を務めた市大塔支所長、泉井伸之さん(57)は、こう語った。

五條市中心部から南へ約20キロの山間に位置する同市大塔町辻堂地区。台風12号の影響で雨が降り続いた23年9月3日ごろ、市大塔支所には住民らが身を寄せ、当時係長だった泉井さんは現場で対応に当たっていた。

その後、同地区の数軒が土石流によって流されたことを知り、「大きなショックを受けた」と泉井さん。住民らは避難していて無事だったものの、それまで経験したことのないような被害だった。

「数百メートルにわたりすべての家屋がなくなった」。泉井さんのもとに、宇井地区について耳を疑うような第1報が入ったのは4日朝だった。泉井さんらは直ちに情報収集などの対応に追われた。その後避難生活が長期化したが、「住民同士で声かけや食べ物の分け合いをしてくれたことが救いだった」という。

慰霊祭には、宇井地区に住んでいた祖母の長沼紀久世さん=当時(70)=を亡くした大阪府寝屋川市の会社員、向耕平さん(29)も参列した。

当時高校生で奈良市内に住んでいた向さんは、ニュースで流れてきた同地区の映像に言葉を失った。「そこにあるはずの実家が跡形もなくなっていた。『まさかそんなことはないだろう』と信じられなかった」。その後、紀久世さんが土石流に巻き込まれ、行方不明になったことを聞いた。紀久世さんは約1カ月半後、奈良県十津川村野尻の風屋ダムで遺体で発見された。

あれから13年。向さんは「長いようで昨日のことのよう。災害はひとごとではなく、今後も伝えていきたい。行方不明のままの人が少しでも早く見つかってほしい」と力を込めた。

一方、当時、五條市危機管理課長として大塔支所で対応に当たった山本修二さん(66)も豪雨災害を通じて「人の命の重みを何より感じた」といい、子供らに当時のことを伝える講話を行ってきた。山本さんは「大きな災害が自分たちの地域で起きたことを知り、自分の命は自分で守るすべを身に付けてほしい」と呼びかけた。(岩口利一、秋山紀浩)

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