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全戸訪問と個別支援で〝被災者見過ごし〟なくしたい 一人一人に寄り添う「伴走型支援」  能登地震半年

産経ニュース 2024年7月1日 8時0分

能登半島地震の発生から半年。被災地では今、行政とNPO法人などが連携し、被災した自宅で避難生活を続ける人を1軒ずつ訪ねて困りごとを聞き、実情に応じた個別支援を進めようとしている。その一端を担うのが、全国から現地に集まったフードバンクの食料支援だ。

「何かお困りのことはありませんか」

石川県輪島市などで、こう声をかけながら住宅を訪ねて回るのは、社会福祉協議会の職員ら。手には訪問先で手渡すレトルト食品や缶詰、飲料などを携えている。

その食品は「フードバンク能登」(石川県穴水町)が提供する。全国約50のフードバンクから送られた食品の配布拠点として今年3月に開設後、奥能登4市町(珠洲市、輪島市、能登町、穴水町)で、被災者がとどまる住宅3千世帯以上に配られた。

食料持って戸別訪問

「顔見知りでもない人が被災者宅を訪ねるには理由がいる」とは、この食料持参型の戸別訪問を提案したフードバンク岩手の阿部知幸事務局長(49)。フードバンク能登には立ち上げから参加している。

東日本大震災の被災者宅を何千戸と訪ねた経験から、「ただ『何か困っていることはありませんか』と聞き回っても、『私たちは家があるから、まだまし』などと遠慮して、なかなか本音で話してくれない」と語る。

しかし、手ぶらではなく食料を持参し、手渡しながら世間話を切り出すと、次第に心を開いて「職場が被災して仕事を失い、収入が途絶えた」「高齢なので、仮設住宅には入りたくない」などと事情を打ち明けてくれるのだという。奥能登での戸別訪問を裏側で支える阿部さんは、「被災者の困りごとを丁寧に聞き取り、きめ細やかな支援につなげたい」と話す。

「災害ケースマネジメント」とも

まだライフラインが完全復旧していない被災地で、仮設住宅の入居要件を満たさなかったり、「高齢だから」と離れた場所への避難を拒んだりして自宅にとどまる被災者の中には、困窮状態を行政側が把握できず、支援の網から漏れてしまっている人がいるとみられる。

こうした〝見過ごされた被災者〟をそのままにしないため、石川県が中心となりNPO法人などと連携し、全戸訪問による実態把握を進めている。これを端緒に、先に見据えるのが、一人一人の困りごとに寄り添う「伴走型支援」の推進だ。

具体的には、①戸別訪問で困りごとを把握②一人一人の実情に合わせた個別支援計画を策定③専門家がチームになりきめ細かく支援する-という3段階で実施され、「災害ケースマネジメント」とも呼ばれる。

能登半島地震の支援は現在、①から②への移行期。輪島市では全約1万1千世帯への戸別訪問をほぼ完了し、早急に支援が必要な164人を把握した。7月から段階的に個別支援計画づくりに取り掛かる。

今後は公的支援だけでは解決できない法律上の課題は弁護士に、経済的な相談はファイナンシャルプランナーに、自宅再建に関しては建築士に-と、各分野の専門家がチームを組んで一人一人に寄り添った支援を行い、生活再建につなげていく想定だ。

法改正し制度化めざす

被災者の生活再建の支援策として注目される災害ケースマネジメントだが、まだ浸透しているとは言い難い。

すでに条例に定めた自治体は、鳥取県、徳島県などごくわずかだ。大阪公立大の菅野拓准教授(人文地理学・復興政策)は「石川県も事前の体制整備を行っておらず、ゼロからのスタートだった」と語る。

菅野さんは、阿部さんらとともに6月上旬、被災者支援に関する法律を改正して災害ケースマネジメントを法制化するよう、国に要望した。「法律に位置付けられた仕組みではないので、各自治体が取り組むことが難しい。制度化して支援の網から漏れてしまう人をすくい上げることは、災害関連死の減少や復興の迅速化につながる」と訴えている。 (田中万紀)

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