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災害関連死、2次避難や仮設住宅もリスク 能登地震1年経ても「伴走型支援へ職員増強を」

産経ニュース 2025年1月29日 18時0分

昨年元日の能登半島地震後、長い避難生活などで体調を崩して亡くなる災害関連死の認定が相次いでいる。石川など3県の犠牲者500人超のうち、関連死は28日時点で認定見込みを含めて298人。発生1年が過ぎたが、さらに200人程度が認定審査を待つ状態だ。劣悪な環境とされる1次避難所だけなく、2次避難先や仮設住宅も関連死リスクは高い。専門家は「伴走型の支援を続けるため自治体職員の増強が必要」と指摘する。

災害関連死は、長期の過酷な避難所生活や車中泊などを余儀なくされた高齢者が、心身に負担がかかって引き起こされるケースが多いとされる。

実際、石川県が昨年末にまとめた資料によると、関連死と認定された255人のうち70代以上が9割超だった。うち公表に同意があった115人を対象に調べた原因(複数選択可)では、「地震のショック、余震への恐怖による肉体的・精神的負担」が最多の89人だったが、「避難所生活の肉体的・精神的負担」が37人、「転院、長時間の搬送などによる負担」も35人にのぼった。

関連死の原因には、被災地の高齢化率や季節、被災地へのアクセスの困難さなど、さまざまな要素も絡むという。関連死を調査する関西大の奥村与志弘教授(総合防災・減災)は「この対策をすれば関連死ゼロを目指せるというような、単純な話ではない」と指摘する。

血圧上昇の傾向

能登半島地震では関連死を防ごうと、石川県などは底冷えする体育館などの1次避難所に身を寄せた被災者の2次避難を実施し、最大5千人超が県中南部や隣県の環境が整った宿泊施設に移った。それでも、長時間の移動や2次避難先でのストレスで体調を崩し、亡くなった人もいた。

石川県によると、1次避難所にいる被災者は輪島市の2カ所で計8人(23日現在)。2次避難所は昨年12月下旬で終了した。ただ、補修した自宅や仮設住宅に移った被災者にも関連死リスクが懸念され、専門家は引き続き注意を呼び掛ける。

能登半島の避難所などで健康観察を続けてきた金沢医科大氷見市民病院(富山県氷見市)の小畑貴司医師によると、仮設住宅など慣れない環境下にいる被災者はストレスで血圧が高くなる傾向があり、高血圧状態が続くと心臓の病気や脳梗塞などにつながる恐れがある。小畑医師は「健康観察を続けるとともに、運動や食事など生活習慣の管理が必要だ」と話す。

ポイントは保健師らによる継続的な健康指導といった取り組みだが、同志社大の立木茂雄教授(福祉防災)は「各自治体は財政健全化に向けて保健師などの職員を減らし、伴走型支援を行うためのマンパワーが不足している」と指摘。特に支援団体や福祉事業者をマネジメントできる中間管理職が足りていないとし、「全国の自治体からノウハウを持つ中間管理職を被災地に長期派遣するといった支援策が求められる」と話した。(秋山紀浩)

「劣悪環境」の避難所、国際基準参考に運営指針 内閣府

「災害関連死」の概念が生まれた阪神大震災から30年が経っても、被災者の心身への負担が指摘される避難所の劣悪な環境は、目立った改善がみられない。この状況から内閣府は昨年12月、国際基準を参考に避難所運営に関する自治体向け指針を改定。防災庁設置へ準備を進める石破茂首相も24日召集の通常国会での施政方針演説で、避難所の環境改善に向け、災害対策基本法などを改正すると強調した。

改定指針では、被災者が尊厳ある生活を営める国際基準「スフィア基準」に基づき、災害発生当初から50人に1個のトイレを用意できるよう備蓄を要請。一定期間の経過後は20人に1個とし、女性用は男性用の3倍必要とした。生活空間は間仕切りを用意し、1人当たり最低3・5平方メートルのスペースを基準にする。

仮設入浴施設は50人に1つとする目安も提示。温かい食事の提供に向け、地元飲食店組合などと事前に協定を結ぶなどして調理人を確保し、キッチンカーやセントラルキッチン方式での提供方法も例示している。

ただ、避難所を巡っては、限られた国土で公共施設を中心に設けるといった制約があり、野外でテントも活用する外国とは事情が異なる。自治体が国際基準に沿った十分な生活空間を確保できるかどうかは不透明だ。災害によって道路が寸断されれば、被災地への物資輸送が困難になるという問題も残っている。

「動ける体を保つことも防災」 京都大防災研究所の矢守克也教授

災害直後の避難所は快適でないことが多く、元気な若者でも3、4日体を動かせないと調子が悪くなったりする。避難所の環境改善はもちろん必要で、新設が予定される防災庁でも課題になると思うが、もう一つ重要なのは本人の健康だ。体力が衰えている人と毎日元気に歩く人では、災害時に関連死になる確率が違うだろうということは容易に想像できる。

私たちの研究室は「動ける体が一番の防災グッズ」とのキャッチフレーズで、南海トラフ巨大地震で津波被害が想定される地域などで、高齢者を対象に防災リハビリ教室を実施している。加齢や高齢化は防ぎようがないが、運動を習慣づけることで健康な高齢者数を維持することはできる。

自分でご飯を食べたり歩いたりできることは、本人の幸福度向上につながるし、そのまま防災対策になる。避難所まで自力で移動できれば津波から逃げられる可能性は大幅に高まるからだ。自治体にとっても社会福祉費の削減につながる。

都市部に住む人は、まず一駅分を歩くことから始めたらどうか。帰宅困難対策にもなる。

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