10月28日に88歳で亡くなった漫画家の楳図かずおさんは、和歌山県高野町で生まれ、奈良県曽爾村で幼少期を過ごし、奈良県立五條高校在学中にデビューした。その後上京してからもふるさとやその周辺を訪れていたといい、各地には楳図さんの足跡が残る。親しみやすい人柄は、作品と同様に多くの人をひきつけた。
物語の源流は奈良
楳図さんは小学校教員だった父の赴任先の曽爾村で、幼少期を過ごした。
同村では、楳図さんの作品に大きく影響を与えたとされる「お亀池と大蛇伝説」が伝わる。村の男が妻に迎えた「お亀」という美しい女性の正体は大蛇だった-という内容。楳図さんの作品「へび少女」にも、口が裂けた恐ろしい「へび女」が登場する。
そうした縁で村のマスコットキャラクター「そーちゃん&にーちゃん」は、楳図さんが名前をつけ、弟子の漫画家、金子デメリンさんがデザインした。風光明媚(ふうこうめいび)な山を頭に載せた兄の「そーちゃん」とへび頭がチャームポイントの妹の「にーちゃん」のコンビだ。
芝田秀数村長は平成26年に対談したことがある。その際に楳図さんが宿泊した村内の古民家の宿「木治屋」では、ヒット作「まことちゃん」で流行した中指と小指を折り曲げる「グワシ」のポーズで村民らと一緒に撮影に応じたり、色紙にサインしたりしてくれたという。「とても気さくな人だった。『東京にあるまことちゃんハウスに遊びにきてください』と言われ、楽しみにしていたが残念だ」と話し、「村にとってもかけがえのない人。ご冥福をお祈りしたい」と悼んだ。
楳図さんは、五條町(現・五條市)へ転居し、県立五條高校の3年生だったときにデビューした。平岡清司市長は6日、市のホームページに「『恐怖マンガ』の第一人者としてご活躍され、楳図さんの描かれる作品は、世代を超えて愛されています」とするコメントを掲載した。
和歌山には石像も
五條市と隣接する和歌山県橋本市内にもしばしば立ち寄っていたといい、橋本市のJR・南海橋本駅前には「まことちゃん」の主人公、まことちゃんの石像が設置されている。
橋本商工会議所元職員、豊沢康範さん(65)によると、平成14年、駅前の若手商店主らでつくるグループや同商議所が計画した活性化・空き店舗対策イベントで、楳図さんにトークショーに出演してもらった。その際に石像を設置したいと持ちかけると楳図さんは承諾。「快く認めてくれてありがたかった」と豊沢さんは振り返る。
間もなく、グループメンバーらがフリーマーケットの収益などで資金を集め、像を建立。地元のシンボル的存在になり、クリスマスにはサンタクロースに、ハロウィーンの際には魔女風に衣替えするなどして親しまれた。像にはサイコロ式の日付表示がついていて、今も毎日誰かが合わせているという。
楳図さんの訃報に際し、豊沢さんは哀悼の意を示した上で「恐怖からギャグ、未来の予見に至るまで幅広い作品をかかれた楳図さんの大ファンだった。像を建てることに関われたことが大きな喜び」と語った。
また、商店主らのグループの中心メンバーだった同駅近くのガス販売「神谷商店」社長、神谷和生さん(62)も「楳図さんの作品に感化された。お会いしたときは、気取らずにこにこしていたという印象」と振り返り、「この像はみんなに愛されているし、これからも愛されてほしいと思う」と感謝を込めて語った。