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「優しくスッと心に入ってくる」必殺シリーズ取材、高鳥都さんが語る火野正平さんの魅力

産経ニュース 2024年11月22日 12時50分

14日に75歳で死去した俳優の火野正平さんは、代表作の一つとなったテレビ時代劇「必殺」シリーズで、快活な立ち振る舞いや必死に江戸の街中を走り回る姿などが視聴者を魅了した。同シリーズをテーマにした著書『必殺シリーズ異聞 27人の回想録』(立東舎)の取材で昨年、火野さんを取材したライターの高鳥都さんは、優しさを持ち、スッと人の心に入ってくるような人だったと振り返る。

軽さやナチュラルも計算

──火野さんの演技の特徴は

「役に憑依(ひょうい)するというよりは、火野正平そのもののパーソナリティに役を引き付けるようなタイプ。そのやり方で、それぞれの役柄を魅力的に演じ分けていた。必殺シリーズの場合、子役時代から京都映画の撮影所に出入りしてスタッフに可愛がられており、まるで自分の家のようにリラックスして演技できたのかもしれない」

「演技は感性のままに見えて、実は緻密。『新必殺仕置人』(昭和52年)の監督を務めた高坂光幸さんは『あいつ嘘つきなんですよ』と、私のインタビューで語っていた。いい加減なようで、軽さやナチュラルさも計算されていた」

〈火野さんは必殺シリーズで3作にレギュラー出演した。最初に登場した「新必殺仕置人」は今もファンが多い。山﨑努さんが演じる念仏の鉄や藤田まことさん演じる中村主水(もんど)らが、夜の闇に紛れながら、市井の人の恨みを晴らしていく。火野さんは、直接手は下さずに情報収集を担当する正八(しょうはち)を演じた〉

──正八の魅力は

「火野さん本人を思わせるキャラクターだ。時代劇にはある種の格式、堅苦しさが付き物だが、そういうものから自由な役で、アドリブも多かった。暗い話になりがちなテーマのドラマの中で、正八の明るさがアクセントになっていた」

──悪人を始末する仕置人ではなかったが、正八も人気があった

「鉄や主水は前作(必殺仕置人、48年)にも登場しており、感情を抑えられるプロの殺し屋。一方で正八は青臭く、情にあつく、視聴者が感情移入できる人物として描かれていた。絶対にかなわないような相手にも立ち向かう硬骨漢でもあった」

「特に、過酷な運命に陥った幼なじみのために正八が捨て身の行動に出る『代役無用』(第17話)はシリーズ屈指の傑作だと思う。この話では火野さんが劇中歌『想い出は風の中』を披露した。高坂監督が自ら作詞し、火野さんの飲み仲間がギターを弾いたという手作りのエピソードがある。これと『夢想無用』(第30話)、『愛情無用』(第40話)を合わせて、ファンは正八3部作と呼んでいる」

走る姿が絵になる人

──そのほか、印象的なシーンは

「定番なのが、下駄を鳴らして一生懸命走っている姿だ。火野さんにインタビューしたとき『また走っている姿を見たい』と言ったら、『73歳やで』と笑っていた。しかしよく考えるとNHKBSの人気番組『にっぽん縦断 こころ旅』では自転車で、今年8月公開の映画『ラストマイル』では軽トラックで走っていた。いろいろと走る姿が印象的で、絵になる人だった」

「ラストマイルでは宅配ドライバー役。新しい『鬼平犯科帳』では主人公、長谷川平蔵が使う密偵の『彦十』役。歳を取ると偉い人物の役をやるようになる俳優が多い中、火野さんは最後まで主に市井の人を演じ、視聴者の心に残った。さらに演技が円熟味を増していくところだったのに残念だ」

──インタビューで話した印象は

「偉ぶるようなことはなく、気さくな感じだった。人気ドラマ『傷だらけの天使』(昭和49年)で水谷豊さんが演じたアキラ役は当初、火野さんが演じる予定だったという裏話にも答えてくれた。火野さんはモテることで有名だが、話していると、『これは惚れる』という感じ。優しさが伝わるし、スッと心の中に入ってくるような印象があった」(聞き手 高橋寛次)

高鳥都(たかとり・みやこ) 昭和55年生まれ。平成22年よりライターとしての活動をスタートし、雑誌を中心にルポやインタビューを執筆。著書に『必殺シリーズ秘史 50年目の告白録』『必殺シリーズ異聞 27人の回想録』『必殺シリーズ始末 最後の大仕事』『あぶない刑事インタビューズ「核心」』、編著に『別冊映画秘宝 90年代狂い咲きVシネマ地獄』『必殺仕置人大全』があり、『漫画+映画!』ほか共著多数。最新刊は今年10月に発売された『必殺シリーズ談義 仕掛けて仕損じなし』。

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