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地面師撲滅の最終手段になるか 「所有者不明土地」解消を目指す相続登記義務化に期待

産経ニュース 2025年2月1日 9時0分

所有者不明の土地をなくすことを目的とした相続登記の義務化が始まり、4月で1年となる。所有者が分からない土地は災害時に復興の妨げとなるだけでなく、ドラマでも話題となった土地の所有者を偽り多額の不動産代金をだまし取る「地面師」による犯罪の温床にもなる。捜査当局からは、地面師を根絶させる「最終手段」として、土地所有者の明確化に期待する声が上がっている。

税収確保に加えて

政府は民法を改正し昨年4月から不動産の相続登記を罰則つきで義務化した。来年4月1日からは相続だけでなく、所有者の住所変更登記も罰則つきで義務化される。

所有者不明土地の問題が顕在化したのは平成23年3月の東日本大震災だった。沿岸部の被災者の集団移転を実現するため、高台の土地を確保しようとした際に所有者が分からず難航した。

ただ、所有者を明確にするメリットは、災害復興の円滑化にとどまらない。国税局出身の税理士によると、固定資産税や相続税の徴収漏れがなくなることによる税収の確保、さらには土地の所有者を装う地面師の撲滅も期待できるという。

ネトフリでも話題に

地面師とは、他人の土地の所有者になりすまして架空の売却話で多額の購入代金をだまし取る詐欺師のことだ。

狙われるのは、登記上の所有者がすでに亡くなっていたり、高齢者施設に入所するなどして所有者を探すのに時間がかかる土地などの不動産。土地や建物の登記関連書類を偽造し、代金を受け取ると姿をくらますのが典型的な手口とされる。

昨夏、大ヒットした動画配信大手「ネットフリックス」のドラマ「地面師たち」のモデルとなった平成29年に大手ハウスメーカー「積水ハウス」が多額の被害に遭った地面師事件でも、舞台となったのは所有者が既に死亡していた土地だった。

こうした地面師が最も暗躍していたのは昭和末期~平成初期のバブル崩壊前後だった。当時は登記簿などが電子化される前で、各法務局にバインダーで止められた登記簿の原本が置かれていた。

捜査幹部によると、地面師らは登記簿の閲覧を装い、登記簿の原本を所有者欄などを偽造した書類に差し替えるなどしていた。今から考えると、かなりアナログな手口といえる。

手口は高度化

ただ、バブル前後に比べれば下火になったとはいえ、地面師事件の摘発は今も絶えない。

別の捜査幹部は「科学技術の進歩は犯罪者にとっても同じ。手口も当然高度化、進化している」と指摘。交流サイト(SNS)で素人の実行犯を募集する特殊詐欺と違い、地面師詐欺は「高度なスキルが必要だ」と指摘する。

この捜査幹部によれば、地面師事件では偽造免許やスマホを用意する「道具屋」▽振込先口座を準備する「銀行屋」▽なりすまし役を発掘する「手配師」▽法令に詳しく司法書士などを装う「法律屋」-といった犯罪のプロ集団が関わる。

捜査幹部は「プロ犯罪集団を根絶するまでは油断できない。土地所有者を明確にすることで、地面師包囲網はようやく完成する」と力説する。

法務省によると、相続登記義務化の認知度(昨年9月時点)は72・9%。所有者の住所変更登記義務化に至っては30・7%にとどまる。周知が十分に進んでいるとはいえず、同省はPRに躍起だ。

検察関係者は「社会問題として定着してしまった特殊詐欺と並んで、数こそ激減したものの一度の被害額が大きい地面師詐欺は絶対に看過できない詐欺の手法だ」と強調。「相続登記義務化の周知徹底は、地面師根絶に向けた決め手となるだろう」と話した。(大島真生)

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