「紀州のドン・ファン」と呼ばれた和歌山県田辺市の資産家、野崎幸助さん=当時(77)=に致死量の覚醒剤を飲ませて殺害したとして殺人罪などに問われた元妻、須藤早貴被告(28)の裁判員裁判は15日午後も被告人質問が行われた。検察側の質問が終わり、弁護側が再質問しつつ、裁判官や裁判員も野崎さんとの結婚目的などを確認した。「今、目の前に野崎さんがいたら…」。そのような質問に対して被告が絞り出したのは、死亡した「タイミング」への不満だった。
階段昇り降り8回
弁護側が再質問で最初に取り上げたのは、スマートフォンの健康管理アプリの記録。検察側が覚醒剤を摂取させたと主張する平成30年5月24日午後4時50分~午後8時ごろ、アプリには野崎さんが死亡しているのが見つかった2階へ8回上がった記録があった。
被告はこれまでの被告人質問で階段の上り下りは「日常茶飯事」のため、8回上った理由は思い出せないとしていた。
これを受け、前回11日の審理では、検察側が同年4月20日~同年5月23日の同時間帯のアプリの記録を開示。0回が12日で最も多い一方、8回は一度もなく、「日常茶飯事」との供述を疑問視していた。
一方、弁護側はこの日、4月20日~5月23日のうち9日間はそもそも野崎さん宅に滞在していなかったことを明かす。
弁護人「(逮捕後の)聴取のときに(アプリの)客観的証拠が示されたことはあったか」
被告「何も見せられていないです。捜査員は早い段階で(アプリの記録を)知っていた。6年たった今、ジャジャーンって記録を出されても可能性でしか答えられない。どう頑張っても思い出せないものは思い出せないので、残念だなって思いました」
歯ブラシから覚醒剤反応
第5回公判では、捜査に携わった和歌山県警の警察官が出廷。野崎さん宅2階の洗面台にあった野崎さんの歯ブラシやコップなどから覚醒剤の陽性反応があったほか、令和元年に被告宅から押収したライダースジャケットやパスポートケースからも陽性反応があったと証言していた。
弁護人「ライダースジャケットから覚醒剤が検出されていることについて説明はできるか」
被告「亡くなった後に社長(野崎さん)の家に出入りするときに身に着けていたものなので、いつ(覚醒剤が)ついていてもおかしくない」
そして、検察側からの最後の質問で野崎さんが死亡したことへの思いを問われ、「目の前にいるなら文句を言ってやりたい」と被告が語ったことにも言及する。
弁護人「今、目の前に野崎さんがいれば何を言いたい」
被告「うーん…」
しばらく沈黙した末に答えを絞り出す。
「もうちょっと死に方を考えてほしかった。社長(野崎さん)があのタイミングで死んだせいで私は何年も人殺し扱いなので」
「目先の100万円が大事」
口調は冷静ながらも、事件後に置かれた自身の境遇への不満をにじませた被告。最後に裁判員や裁判官が質問する。まずは裁判員が、野崎さんから覚醒剤の購入を依頼されて密売人に接触したことがあるとする被告の説明に関して問う。
裁判員「家政婦が掃除をした際に覚醒剤を見つけてしまうとの懸念はなかったか」
被告「(野崎さんの部屋は)ぐちゃぐちゃ。掃除をするけどザッとしかしないので気にしていなかった」
裁判員「証人尋問では、野崎さんは『出所が不明なものは口にしない』との証言もあった」
被告「うーん。自分で用意させたものは口にするんじゃないかな」
裁判員「野崎さんに食べ物や飲み物をプレゼントしたことは」
被告「ないです」
これまで被告は、野崎さんとの関係を「お金目当て」と一貫して語ってきた。
裁判員「遺産と(結婚する条件の)毎月100万円、どちらに重きを置いていたのか」
被告「私は目先の利益派なので毎月100万円のほうが大事」
裁判員「遺産はいつかもらえればラッキーぐらい」
被告「そうです」
裁判長も、覚醒剤の購入依頼について尋ねる。検察側からの質問では、捜査段階ではそうした説明をしていなかったことが明かされている。
裁判長「その話を最初にした相手は誰ですか」
被告「(弁護人の)先生です」
裁判長「いつ」
被告「起訴後に拘置所に移ってからです」
裁判長「どうしてそのタイミングで。話そうと思ったきっかけは」
被告「逮捕されてずっと警察署にいて何時間も取り調べられてピリピリしていて、拘置所に移って落ち着いたときに話しました」
裁判長「証拠を見る前ですか」
被告「(手元に)届く前です」
裁判長「(接触した)密売人の証言とかは知っていたんですか」
被告「ニュースでやっていると聞きました」
裁判長「誰から」
被告「警察官も言っていたし」
3日間にわたって行われた被告人質問が終了した。被告が無罪を主張する中、9月12日の初公判から28人の証人尋問も行われた長期審理は18日の論告求刑公判で結審する。