和歌山市の漁港で令和5年4月、岸田文雄前首相の演説会場に爆発物が投げ込まれた事件で、殺人未遂罪などに問われた無職、木村隆二被告(25)の被告人質問は6日午後も続いた。検察側は、岸田氏らへの殺意や当時選挙中だったとの認識を否定する被告を追及。被告は釈明しつつ、終盤には「子供を思う気持ちがはやってしまった」と後悔も語った。
午前中の弁護側の質問に対し、被告は事件前月に自宅近くの山林で爆発の実験をしたと述べた。弁護側はこの実験結果から、被告に危険性の認識はなかったと主張している。一方、検察側はこの「実験」の詳細を詰めていく。
検察官「実験は何のため」
被告「大きな音が出るのか。危なくないのか。(着火から爆発までに)離れるだけの時間があるのか。煙がたくさん出るのかを見るため」
被告は着火後、5メートルほど離れた木の陰から爆発の様子を観察していたと説明する。
検察官「実験前、自分が作ったものが危ないとは」
被告「危ないとは思っていなかった」
検察官「だが、5メートル離れた」
被告「そうです」
4日の初公判で被告は殺意を否定するとともに、起訴された公選法違反罪も「選挙をやっていることは知らなかった」と否認していた。
検察官「岸田氏が(現場の)雑賀崎(さいかざき)漁港までくることをどうやって知った」
被告「自民党のホームページ」
検察官「何のために来る」
被告「書いてあったんでしょうけど、そこまでは見ていなかった」
検察官「『衆院和歌山1区補選』と検索している」
被告「岸田さんがいる場所を調べるため。その文字列が何を意味するのかについては、あまり考えていなかった」
現場の応援演説会場に到着しても、そこが「選挙の場」であったとの認識を否定する被告。検察側は、被告が参院選の被選挙権や供託金制度が憲法違反だとして本人訴訟を起こしていたことを引き合いに疑問を呈する。
検察官「参院選に立候補しようとしていたのに、衆院選には興味がなかったのか」
被告「興味はあった」
検察官「現場はあなたが知識を持っている選挙の様子ではなかったのか」
被告「客観的にみればそうだが、そのときは深く考えていなかった」
検察官「爆発物を投げたらどうなると」
被告「煙がたくさん出るので、(聴衆は爆発物から)離れると」
検察官「周りの人は逃げていたか」
被告「岸田さんを見ていたので分からない」
検察官「爆発物で人にけがをさせるとは思っていなかった」
被告「はい」
裁判長「今の質問は、誰かを殺すとかではなく、けがをさせることもないと思っていたのかという質問だが、その答えで大丈夫か」
被告「爆発する前に煙も出るし、爆発まで時間がある。誰もけがをするとは思っていなかった」
被告人質問の間には、被告の母親への証人尋問も行われた。母親が「(罪を償った後は)一緒に生きていく」などと述べたのを受け、再び弁護側から情状面の質問をする。
弁護人「岸田氏にも迷惑をかけた」
被告「申し訳なく思っています」
弁護人「今でも政治家になりたい」
被告「一切かかわろうとは思わない。選挙にかかわって迷惑をかけたので」
弁護人「社会復帰したら」
被告「まじめに働いて親孝行したい」
弁護人「現場で小さい子供が泣いている映像があった。今でも子供とかかわる仕事がしたいか」
被告「(しばらく沈黙した後に)できることなら子供とかかわる仕事をしたい」
質問者が検察官に変わる。
検察官「なぜ、事件を起こしたと思っている」
被告は、しばらく考え込む様子を見せた後に言葉を絞り出す。
被告「子供を思う気持ちがはやってしまった」
検察官「子供を思う気持ちがはやることで、どうしてこういう事件を起こすのか」
被告「分かりません」
被告人質問は終了。次回10日の第4回公判で結審する予定。