大阪市生野区で平成30年、暴走した重機にはねられ死亡した、先天性の難聴がある井出安優香(あゆか)さん=当時(11)=の遺族が、運転手側に計約6100万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決が20日、大阪高裁であった。徳岡由美子裁判長は将来得られるはずだった収入「逸失利益」について、「当然に減額する程度の労働能力の制限があるとはいえない」とし、障害がない子供と同じ基準で算定した額の賠償を命じた。
逸失利益の算定基準となる年収は障害がない女子の場合、一般的に全労働者の平均年収とされる。徳岡裁判長は安優香さんにもこの基準を適用。遺族側弁護団によると、障害児の逸失利益を健常児の「100%」で計算する判断は初とみられる。1審大阪地裁判決は健常児の「85%」として、計約3770万円の支払いを命じていた。
将来予測が困難な子供の逸失利益については、できるだけ蓋然性の高い額を算出することになっている。訴訟では安優香さんが就労していたはずの時期に、社会全体における聴覚障害者の平均年収が健常者と同等になっている可能性が高いか否かなどが検討された。
令和5年2月の1審判決は、事故当時の聴覚障害者の平均年収は全労働者の約70%と指摘。近年障害者の就労状況が改善し、音声を文字に変換するアプリなどの技術革新で働く上での「障壁」は少なくなってきており、今後「平均年収が上がる」と予測した。ただ大学進学率の低さなどから、直ちに全労働者平均と同等になるとまではいえないとした。
さらに、安優香さんは、亡くなる頃には年齢相応の学力や一定の会話能力を備えていたものの、「労働能力が制限され得る程度の聴力障害があった」と判断。こうした個別事情も考慮し、将来年収は全労働者の85%と結論付けた。
判決によると、事故は平成30年2月、大阪府立生野聴覚支援学校前で発生。安優香さんが死亡し4人がけがをした。刑事裁判で事故原因はてんかん発作による意識喪失と認定され、運転手は自動車運転処罰法違反(危険運転致死傷)罪などで懲役7年が確定した。