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袴田さん再審無罪判決、姉弟の二人三脚「自由の扉開いた」 潔白を叫び続けて58年

産経ニュース 2024年9月26日 21時53分

潔白を叫び続けて58年。静岡一家4人殺害事件で死刑が確定した袴田巌さん(88)に26日、静岡地裁が再審無罪判決を言い渡した。認められるハードルがあまりに高く、「開かずの扉」とも言われる再審。無実を信じた姉と弁護団の執念が司法を動かし、袴田さんを「死刑囚」の立場から解き放った。ただ、長期の身柄拘束で袴田さんは心を病み、事件の「真犯人」は分からないまま。半世紀超の「迷走」が残した傷痕はあまりに大きい。

「巌さんの自由の扉は、ちゃんと開けました」。26日午後、静岡地裁の法廷に、国井恒志裁判長の声が響いた。

判決公判は午後2時、開廷した。国井裁判長は冒頭、袴田さんの代わりに出廷した姉、ひで子さん(91)に証言台の前に来るように促し、語りかけるように主文を告げた。

「被告人は無罪。袴田巌さんは無罪というのが、裁判所の結論です」

傍聴席から拍手が起こり、ひで子さんはハンカチで目元を押さえながら法廷内の席に戻った。

判決は、袴田さんが有罪とされた決め手で、犯行着衣とされた「5点の衣類」など3点の証拠について「捜査機関による捏造(ねつぞう)」と踏み込んだ。

無罪信じ続け

58年間、無罪判決を待ち続けたひで子さんは判決後の会見で「『無罪』と告げた裁判長が神々しく見えた。感激した」と喜びを語り、「巌にも伝えたい」と述べた。

法廷に袴田さんがいなかったのは、48年にわたる拘束で生じた拘禁症の影響で意思疎通が困難なためだ。

逮捕前、毎週末のように浜松市の実家に戻り、会話を交わしていた姉弟。ひで子さんは6人きょうだいの末っ子だった袴田さんを殊の外かわいがった。

それは逮捕後も変わらない。周りから一人、また一人と人が離れていく中で、むしろ、その絆は強まっていったともいえるかもしれない。

弟の無罪を信じ続け、平成26年、静岡地裁が再審開始を認める決定を出し、48年ぶりに釈放された袴田さんと2人で暮らし始めてからですら、もう10年。ようやく訪れた無罪判決に、ひで子さんは「死なないでよかった」と漏らした。

「真の自由を」

「巌に真の自由をお与えください」。昨年10月の再審初公判で、ひで子さんはこう述べていた。

この日の判決公判。法廷で無罪判決の言い渡しを終え、死刑囚という重しから袴田さんを自由にした国井裁判長は、11カ月前のひで子さんの言葉を引用し、話し始めた。

「この裁判所は、巌さんに真の自由を与える役割までは与えられていない」。検察側が控訴すれば裁判はさらに続き、判決確定に時間がかかる可能性があるからだ。

逮捕から58年。事件当時30歳だった袴田さんは88歳に、33歳だったひで子さんも91歳となった。

「ものすごく時間がかかったことは、本当に申し訳ない」。国井裁判長は謝罪しつつ、言った。

「真の自由を獲得したといえるまでには、まだ時間がかかる。これからも末永く、心身共にお健やかに。心から祈っております」

それを聞いたひで子さんはその後、前をまっすぐに見据え、力強い足取りで法廷を後にした。今後も続く姉弟の歩みを象徴するかのように。(橘川玲奈、山本玲)

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