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袴田さん再審無罪判決、10日に控訴期限 検察どうする「雑な判断」「反論できるか」

産経ニュース 2024年10月6日 18時11分

昭和41年、静岡県でみそ製造会社の専務ら一家4人が殺害された事件で、袴田巌さん(88)を無罪とした静岡地裁の再審判決への控訴期限が10日に迫っている。先月26日の判決は、捜査機関の「3つの捏造(ねつぞう)」を認定。検察内部からは反発の声が上がる一方、無罪を覆すことは困難との見方もあり、検察は慎重に控訴するかを検討している。

「捜査機関の捏造を断定できるような証拠はない。腑(ふ)に落ちない」

無罪判決後、ある検察幹部は判決内容への不満を漏らした。

今回の判決は、袴田さん逮捕の約1年後に犯行現場近くのみそタンクから見つかり、確定審で犯行着衣とされた「5点の衣類」について、捜査機関の捏造と断定。

袴田さんが自白した検察官調書や、袴田さんの実家から発見された5点の衣類の端切れも含め、3つの捏造を認定した。

検察内部では、捏造した過程には具体的な言及がないことなどから「雑な判断だ」などと反発する声が大半を占める。

ただ、最大の焦点は5点の衣類に付着した血痕の「赤み」だ。

衣類が見つかったのは逮捕から1年以上後で、判決は今回のような状況で1年以上みそに漬ければ赤みは「残らない」と言い切り、捜査機関が発見の少し前に入れたと認定した。

検察側は再審公判で赤みが残る可能性がゼロではないことを前提に袴田さんが逮捕前に衣類を隠したとし、他の証拠から有罪立証を組み立てた。

だが、赤みが残る可能性を完全に否定されれば、勾留中の袴田さんが衣類を隠したことになり、立証は破綻する。

そのため、今回の赤みが「残らない」とする認定に反論できなければ、控訴しても無罪が覆る可能性は極めて低くなる。

別の検察幹部は控訴について「赤みが残らないとの認定に、検察としてどう反論できるかだ」と悩む胸の内を明かした。(桑波田仰太、久原昂也、星直人)

捏造「説得力ある」

元東京高裁部総括判事・門野博氏

今回の判決は的確であり、検察は控訴すべきではない。

判決は、5点の衣類の捏造について、状況的に捜査機関しかありえないと断定した。捜査機関は袴田さんの衣類を事前に入手可能な立場で、客観証拠の少ない当時の状況から捜査側に捏造する動機があったことなどが主な根拠だ。判決は他の状況証拠もちりばめており、直接証拠はないものの、捏造認定には説得力がある。

証拠からみて、みそタンクに長時間漬けられた5点の衣類の血痕について、少なくとも赤みが残る可能性が極めて低いことは明らかで、捜査機関の捏造が認定されなかったとしても、袴田さんが犯人であることに「合理的な疑い」が生じていることに変わりはない。

控訴しても無罪を覆すことが難しいことは検察も分かっているはずだ。

反証可能なら控訴を

元最高検察庁次長検事・伊藤鉄男氏

再審判決は「5点の衣類」の血痕について、今回のみそタンクの状況では赤みは残らないと言い切った上で、衣類は捜査機関による捏造と結論付けた。だが、裏付ける証拠は全く示されておらず、事実認定は杜撰だ。

衣類自体に捏造の痕跡は全くない。衣類に付着した血痕や損傷が不自然ではないことは判決も認めている。もし判決通りなら、初公判の前に捜査機関が衣類を入手しながら、1年間、手元に置いた後に捏造したという現実離れした話になる。

これまでの死刑再審事件と比べて証拠の質も量も全く異なる。一家4人が殺害された重大事件で、一度は最高裁で死刑が確定してもいる。

検察としては、赤みの判断も含めて判決内容を分析・検討し、反証が可能なら控訴して上級審の判断を仰ぐべきだろう。

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