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開設20年のロースクールなぜ失速 合格率低迷、廃止相次ぎ半数に 岐路に立つ法曹養成

産経ニュース 2024年7月5日 20時58分

「国民に身近な司法」をうたった司法制度改革の柱の一つとして法科大学院(ロースクール)が開設されてから今年4月で20年を迎えた。法曹人口を増やし、多様な人材を輩出する拠点として期待されたが、入学者を募集するロースクールの数はピーク時の半分以下に。代わりにロースクールを経ずに司法試験の受験資格が得られる「予備試験」経由で法曹を目指す人が増えるなど、改革は岐路に立っている。

誤算

「法の精神、法の支配がこの国の血肉と化し、『この国のかたち』となるために、一体何をなさなければならないのか」

平成13年に国の司法制度改革審議会がまとめた意見書では、改革の根本課題をこう設定し「人的基盤の拡充」を柱の一つに据えた。これを受け16年、ロースクールが開設された。

誰でも受験できるが合格率数%と最難関の資格試験の一つだった司法試験制度も拡充した。

18年、旧司法試験を残した上で、原則としてロースクール修了者のみに受験を認める新司法試験も開始。合格率を7~8割と想定し、試験時のみの「点」での選抜から、「プロセス」として法曹を養成する方向へとかじを切った。

ただ、新制度では司法試験合格者数の目標値を従来の3倍にあたる「年間3千人」としたものの、24年の2102人をピークに伸び悩み、27年には「年間1500人程度」に下方修正。ロースクール修了者の合格率も、21年からの約10年間は2割台と低迷が続いた。

ロースクールの志願者も減少。17年には74校あった入学者の募集は停止や廃止が相次ぎ、今春時点で募集は34校となった。加えて司法試験自体の受験者数も、制度開始直後は増えたものの、年々減少していった。

予備試験組増加

一方、近年は23年に導入されたロースクール修了者以外も受験できる予備試験から法曹を目指すルートが人気だ。23年の受験者数は6477人なのに対し、昨年は倍以上の1万3372人。当初の理念とは裏腹に、「点の選抜」への先祖返りが進みつつある。

こうした状況に、ロースクールも変革が進む。令和2年には大学法学部とロースクールを計5年で修了し、法曹資格取得までの期間を最大2年短縮できる「法曹コース」が新設された。5年からはロースクール在学中の司法試験受験も可能となり、5年の司法試験受験者数と合格者数は、前年から増加に転じた。

大手司法試験塾「伊藤塾」の伊藤真塾長は司法制度改革で「安定的に年間1500人程度の法曹が生まれるようになった」と評価。「法学部生を優遇する法曹コースは本来の趣旨から後退している」とし、「誰でも挑戦できる予備試験が結果的に多様性を確保する仕組みになっている」と分析している。(滝口亜希)

ロースクールは失速も弁護士人口は増加 企業でも活躍、法律事務所、行政と奪い合い

法科大学院制度を含めた司法制度改革で、平成13年に約1万8千人だった弁護士の数は、今年4月時点では約4万5千人まで増加した。

これに伴い、弁護士事務所の「大型化」も進んでいる。弁護士白書によると、51人以上が所属する事務所は平成22年の14から昨年は27に。大規模の上位5事務所に所属する弁護士の数も1622人(22年)から2865人(昨年)となった。

活動領域も多様化している。日本組織内弁護士協会(JILA)によると、国内企業で働く弁護士の数は過去10年で3倍以上となり、昨年初めて3千人を超えた。JILAの坂本英之理事長は「事業拡大に伴い法務リスクを管理したいといった企業側のニーズがある。(弁護士側も)業務時間が決まっているのでワークライフバランスを確保しやすい」と話す。

他方で「採用難」を懸念する声もある。

昨年11月、「ロースクールと法曹の未来を創る会」が開催したシンポジウムでは、企業担当者が「弁護士の採用への応募がほとんどなくなった」と嘆く場面もあった。同会は「あらゆる分野で弁護士需要が増えるなか、法律事務所や企業、行政機関で人材を奪い合うことになっている」とし、司法試験合格者を「少なくとも2千人以上」とするよう求めている。

法科大学院は「失敗以外の何物でもない」 

早稲田大学大学院法務研究科の須網隆夫教授

法科大学院の開設当初の理念に照らせば、現状は失敗以外の何物でもない。「法律家の能力は1回の試験では測れない」というのが制度を決めた際の一致点だったが、予備試験との競争を強いられる中で、司法試験合格を目的としてカリキュラムは再編され、法科大学院は予備校化している。

法科大学院在学中受験の導入で、学生はますます試験勉強に追われ、試験科目以外ヘの関心も低下していると感じる。社会と触れながら法律家のあるべき姿を考えるために学生と東日本大震災の被災地の現地調査を続けてきたが、学生の時間確保も難しくなっている。

法曹コース導入で法学部と大学院は事実上一体化し、制度の実質は、大学院中心の米国型から法学部中心の欧州型に変容した。当初の構想が失敗したことを正面から認めた上で、どういう法曹を育てるのかという本質的議論に取り組み法学部と大学院が一体となって法曹養成を再建すべきだ。

現在の状況が続けば、在学中受験で合格者を出せない法科大学院は志願者が減り、淘汰(とうた)が進むことも予想される。

(聞き手 滝口亜希)

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