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有罪堅持か税収確保か 脱税告発率、5年ぶり目標値割れ 検察と国税の思惑に温度差も

産経ニュース 2024年11月19日 8時0分

国税当局が昨年度に査察調査した脱税案件のうち、検察庁への告発に至った「告発率」が66・9%と、5年ぶりに目標とする7割を下回った。脱税の告発は、国税と検察が事前に協議した上で行われるが、国税出身の税理士は「捜索を伴う査察調査が入っても3割以上が刑事事件にならないのでは、納税者から不信を買いかねない」と危惧する。なぜ、こうした状況が生じているのか。

告発=有罪

国税庁によると、令和5年度に税法違反(脱税)で全国の国税局が処理した件数は151件。うち101件を告発し、告発率は66・9%だった。7割を切ったのは平成30年度(66・5%)以来のことだった。

令和元年度以降、2~3年度は新型コロナウイルス禍で告発件数自体が減ったものの、告発率は4年間連続で7割を超える高水準を維持してきた。それだけに、国税関係者は「5年度は告発率が伸び悩んだ印象だ」と語る。

国税・検察が綿密に打ち合わせる脱税事件の告発後の処理は、他の刑事事件の処理と比較しても特殊といえる。

4年の犯罪白書を見ると、事件全体の起訴率(略式起訴を含む)は32・2%。うち道交法違反を除いた特別法犯(税法違反を含む)の起訴率は48・7%だったが、国税局が告発した税法違反の起訴率は100%だ。

1審判決での有罪率をみても、日本は「精密司法」と称されるだけに事件全体で99・25%と極めて高いが、国税局の告発事件は100%。「告発=起訴=有罪」という図式が成り立っている。

制裁税額に差

国税が査察調査中の脱税事件を巡っては、告発する前に検察と国税の両者による「告発要否勘案協議会」が開かれ、起訴が可能かどうかの検討が行われる。ここで「可能」とされたものだけを国税が告発するのが慣例となっている。

ただ、検察と国税では、告発する際の「思惑」にずれがあるのが現実だ。

税法上、刑事事件化されて故意に課税を逃れようとした「所得隠し」が認定されれば、制裁で課される税額は過失である「申告漏れ」より、はるかに高額になる。

こうした仕組みを念頭に、ある国税関係者は「私たちが重視するのは国の税収だ」と強調。告発により刑事事件化することが重要だとの認識を示す。

一方で、法務・検察関係者は「入念に事前協議を行うのは、高い有罪率を維持するためではなく、税金事件(脱税事件)自体が法律的に十分な吟味や検討を必要とするケースが多いからだ」と説明する。

国の税収を確保しながら適正・公平な課税を実現していかなければならない国税と、法と証拠に基づき淡々と事件を処理することが求められる検察。双方の役割の違いが「価値基準の違い」(国税関係者)としてあらわれている格好だ。

検察出身のある弁護士は「告発率7割超というのが(国税にとって)重要な目標値であることは理解するが、無理にでも達成しなければならない『ノルマ』ではない」と指摘。

国民が納得する公平な課税を実現するため、「検察と国税が粛々と協力していくことが重要だろう」と指摘している。(大島真生)

査察調査 国税局による強制調査のこと。法人税法違反や所得税法違反、消費税法違反などの脱税容疑を立証するため、裁判所の許可(令状)を得て行われる家宅捜索で、証拠を押収する手続きを意味する。旧国税犯則取締法で規定されていたが、平成30年に同法は廃止され、任意の税務調査を規定している国税通則法の改正法に規定が編入された。

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