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「吠えない番犬」逆戻り許されず 公取委の刑事告発、2年間ゼロ 今年は真価問う年に

産経ニュース 2025年1月13日 8時0分

独占禁止法違反罪で公正取引委員会が検察に刑事告発した犯則事件の件数が、昨年はゼロだったことが犯罪白書などで明らかになった。公取委は「毎年1件の告発」を内々の目標に置いているとされるが、最後の告発は令和5年2月の五輪談合事件で、ほぼ2年にわたり途絶えている。米グーグルへの初調査の結果も行政処分にとどまるなど、「市場の番人」としての真価を問う声も上がっている。

GAFAは行政処分

公取委は近年、グーグルをはじめとして「GAFA」と呼ばれる米国の巨大IT企業群を対象とした調査を強化している。

中でも、グーグルを巡ってはLINEヤフーへの技術提供を中止して同社の検索連動型広告の配信事業を制限したとして、4年春から調査を開始。昨年4月には事業者側に改善計画を提出させる独占禁止法の「確約手続き」に基づき、グーグル側の改善計画を認定し初めて行政処分を行った。

公取委は、別の問題を巡ってもグーグルを調査し違反行為のとりやめなどを求める排除措置命令を同社に出す方針も固めており、昨年11月からは別件でインターネット通販大手「アマゾンジャパン」も調査している。ただ、いずれも告発には至らないとみられる。

公取委が運用する独禁法の告発対象は、私的独占▽談合やカルテルなどの不当な取引制限▽合併制限違反-など。だが、現在行われているグーグル、アマゾンへの調査は、そもそも告発の対象外である「不公正な取引方法」に基づいているためだ。

検察出身の弁護士は「外資系の大手IT企業に対し、公取委が弱腰な印象はまだまだ拭えない」と話し、「独禁法の専門家集団として、ITの世界市場を事実上支配するGAFAはしっかり監督すべきだ」と注文をつける。

外圧で方針転換

公取委の告発はこのところ、2年に1回程度のペースで推移している。

昭和49年、石油ヤミカルテルの告発に踏み切ったものの一部で無罪判決を受けて以降、公取委は長年にわたって告発を封印し、行政処分のみを出してきた。

だが、市場開放を求める米国の外圧で平成2年、刑事罰制度を積極活用する方針に転換。3年に食品包装用ラップカルテル事件の告発に踏み切った経緯がある。

11年10月には旧防衛庁ジェット燃料入札談合事件で年間2件目の告発を実現。「吠(ほ)えない番犬」と皮肉られてきた〝黒歴史〟に、いったん終止符を打っていた。

「東京縛り」解除

さらなる転機となったのは、平成18年1月の改正独禁法施行だった。

強制調査(家宅捜索)権が付与される一方、告発対象となる事件を、私的独占や不当な取引制限などに事実上改めて限定。消費者の利益に大きな影響を及ぼすものや国民経済に多大な影響をもたらすもの、解明に専門的知見を必要とされているものに絞った形だ。

また、これまで公取委が告発した犯則事件を起訴する権限が東京高検に限定されていたのも解除され、犯則事件を専門とする犯則審査部も公取委に新設された。

同年には屎尿(しにょう)処理施設建設工事を巡る入札談合事件を大阪地検特捜部とタッグを組んで摘発。東京以外の地検を初めてパートナーとした上、強制調査を経た犯則事件の初告発でもあった。

公取委OBは当時について「強制調査ができるようになったこと以上に、起訴を東京高検に限定する『縛り』が解けたことで各地の地検と連携できるようになったことを喜んでいた」と振り返る。

公取委はその後の3年間で、4件の犯則事件を告発。「役所(公取委)の中では『これからは1年に1件の告発がノルマだ』という声があちこちで聞かれた」という。

それから十余年。ほぼ2年で告発がゼロとなっている公取委は、「吠えない番犬」に戻ってしまったのか。それとも日本市場を脅かすGAFAのような〝黒船〟への対策にシフトチェンジ中の過渡期にあるということなのか。

公取委OBは「物価高にあえぐ消費者、国民の、市場の浄化に対する期待感は根強い。公取委は、まだ告発例がない私的独占などの条文を駆使して、期待に応えるべきだろう」とする。

令和7年は、本当の意味で公取委の真価が問われる年となりそうだ。(大島真生)

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